この総合写真展には毎年たくさんの写真作品が応募されてきます。その中で勝ち残ってきた入選作品は、写真上達をめざす方々にとって基本的な表現力を備えた、とても良いお手本ともいえるでしょう。ただ昨今、撮影技術は平均的に高くなった一方、独自の視点による被写体の発見やその表現方法においては、残念ながら個性的な作品がいささか減ったようにも思えます。
言い方を替えれば「上手だけれど、どこかで見たような写真」が多くなった、という印象でしょうか。優れた写真表現には基礎的な撮影技術と表現力に加えて、あなたにしか撮れないオリジナリティーも大切です。そんな思いから、今回は特に個性的な作品をピックアップしてご紹介したいと考えました。ご一緒にこれらの作品から〝あなただけの写真作品を生み出す〟ためのヒントを探してみましょう。総合写真展 審査員板見 浩史先生

既視感の少ない「私光景」が放つ魅力

どれほど上手で撮影意図が明確にもかかわらず、「前にどこかで見たよね」という印象が強すぎる写真は、なかなか上位にまで残ってくることは少ないようです。それは、できれば類似した作品を避けて作者のオリジナリティーを尊重したい、というコンテスト本来の目的や主催者の意思が働くためです。また、天地左右360度の世界の中から私だけの光景を写真で表現したい、という写真家本来が持つ欲望によるものなのかも知れません。そのためには、写真技術やアイデアや発想の転換など、旺盛なチャレンジ精神と感性が必要となってきます。

若林紀男さんの作品
「静寂に建つ松本城」
天動説?と地動説?の狭間に佇む名城
根強い人気の"星景写真〟。長時間露出による同心円の星の軌跡と、松本城との組み合わせが美しく描写されています。普通の風景写真的な構図なら上の星景だけで構成しそうですが、この作品は水面の映り込みまで入れたところがユニーク。そのため星の上下の動きがダイナミックになり、どっしりとした城に動感が生まれました。天動説と地動説のロマンを名城と美しい星で視覚化した個性的な風景写真と言えそうです。
土田理華子さんの作品
「景風清」
実景から現実感を消して夢の世界に
手前のネギ坊主の行列の先にはなだらかな丘と一本の樹。遠くには山と空。のどかで夢のような光景に見えるのは、画面全体に現実感がなく、樹と木陰だけがほんのわずかリアルに強調されているせいでしょう。おそらくアプリのソフト効果を駆使されたのだと思いますが、まことに的確な使用法です。シンプルな構成の中にも上部の雲の位置、樹と丘の曲線とのバランス、画面下部の処理など、全体に高い構成力とセンスが伺えます。
末廣 栄さんの作品
「夕暮れのくぐり岩」
奇岩に自分の想いを込めたドキュメント
遠くに見えるのが山口県の「くぐり岩」という奇岩。14ミリという超広角レンズで手前の岩に張り付くようにして撮られた渾身の一枚。絞りはf16まで絞り込んでいるため眼前から遠景まで実にシャープ。くぐり岩を単に名勝として撮った〝観光写真〟にはない独自のアプローチが作品から感じられます。燃えるような夕焼けと暗雲も圧巻で、このような壮大な光景に立ち会った作者自身の感動がまさにドキュメントとして写し込められているようです。
坂本浩市さんの作品
「たそがれ」
富士と白鳥の二物衝撃の妙
山中湖では、富士を主役にして手前に白鳥を前景または添景としてあしらうケースが多いもの。でもこの作品は、富士に特有の大きな雲がないこともあり、両者がともに主役という印象。水の輪も印象的で、物思いにふけっているかのような白鳥も主役然として存在感を強めています。俳句では異なる二要素をぶつけて生まれる意外性を〝二物衝撃〟として味わいますが、主役と脇役がここまで拮抗すると、類型的な作品に比べて何か新たな感慨が湧いてくるうように思えます。

掲載した作品は、第29回総合写真展の入賞作品から、解説上の参考例として板見浩史先生に任意で選出していただいたものです。
作者の皆様には、この場を通じて厚く御礼申し上げます。