この総合写真展には毎年たくさんの写真作品が応募されてきます。その中で勝ち残ってきた入選作品は、写真上達をめざす方々にとって基本的な表現力を備えた、とても良いお手本ともいえるでしょう。ただ昨今、撮影技術は平均的に高くなった一方、独自の視点による被写体の発見やその表現方法においては、残念ながら個性的な作品がいささか減ったようにも思えます。
言い方を替えれば「上手だけれど、どこかで見たような写真」が多くなった、という印象でしょうか。優れた写真表現には基礎的な撮影技術と表現力に加えて、あなたにしか撮れないオリジナリティーも大切です。そんな思いから、今回は特に個性的な作品をピックアップしてご紹介したいと考えました。ご一緒にこれらの作品から〝あなただけの写真作品を生み出す〟ためのヒントを探してみましょう。総合写真展 審査員板見 浩史先生

「何だこれ?」なシーンを探してみる

見た瞬間に「あ、よく撮れているね」だけでスルーされる写真より、「何これ?」と一瞬目が止まる、いわゆる「つかみのある写真」「フックのある写真」は人の心に留まる時間が長いものです。もちろん、だからといってそれがすべて写真の評価につながるわけではありません。審査では、わずかな時間のなかでピント、露出、画面構成、撮影意図などたくさんの善し悪しを検証されるわけですが、最初に強いインパクトが無いよりあった方が良いに決まっています。そんな最初のインパクトもあって、かつ優秀賞まで残った作品の一例をご紹介したいと思います。

山口幸夫さんの作品
「ゴリちゃん遊ぼう―」
目を留めさせて実像の良さを伝える
一瞬本物のゴリラ?と思わせて、トリックアートと気付いた後にしみじみと子供の表情の可愛らしさ、そして肩車をしているお父さんの優しい表情に理解が進むという一例。トリックに単に頼ったのではなく、それを活かしたところがこの作品の勝因だと思います。子供の手の位置と視線、それらがゴリラの絵と見事にシンクロすることで相乗効果を上げています。白い窓枠を効かせた全体のフレーミングもとても上手です。
榊原裕二さんの作品
「おっと!」
予定調和がちょっと崩れた面白さ
乗馬の障害物競技。人馬一体となってきれいにバーを飛び越える瞬間を誰もが期待します。そうした場面は過去に何回も見ましたが、この作品はわずかにバランスを崩した瞬間をキャッチ。バランスを保とうとする騎手の足の動きと視線を絶妙な瞬間で捉えて見事です。これだけの力量のある作者だけに、完璧にクリアしたカットもたくさんあると思いますが、この作品こそ面白いと思って応募された、セレクションの眼が成功した例とも言えるでしょう。
世古道也さんの作品
「漁を終えて」
漁の後に海女さんが見せた不思議光景
伊勢志摩などでアワビ獲りに励む海女さんや、漁を終えて海岸を歩く姿はよく見ますが、この作品のようなシーンは珍しいですね。作品タイトルから考えると、仕事の後で濡れた仕事着(いそじゅばん)がまつわり付いて歩きにくいため海風で乾かしているのでしょうか。海の青に白い布が透けてとても綺麗です。若い海女さんたちのお茶目なポーズに、労働の後の健康的なお色気も感じられて、風土感あふれる一幅の景を作り上げていると思います。
香川文孝さんの作品
「自然アート」
氷と気泡が作り出す異様な現象を撮る
寒い地方の湖や沼の底にある堆積物や植物から発生する気泡やガスが氷の下に描く「アイスバブル」と呼ばれる現象。これほど何層にも大きく重なったものはあまりお目にかかれません。ふつうはもっと小規模で可愛らしくカラーで美しく表現されることが多いのですが、作者はモノクロームで、しかも表面の氷の質感描写を消して表現しています。そうした努力やタイトルからも作者の本格的なアート志向がしっかり感じられてきます。これからもネイチャーフォトからアートへの移行によって個性的な作品づくりに進まれることを期待したいものです。

掲載した作品は、第29回総合写真展の入賞作品から、解説上の参考例として板見浩史先生に任意で選出していただいたものです。
作者の皆様には、この場を通じて厚く御礼申し上げます。