この総合写真展には毎年たくさんの写真作品が応募されてきます。その中で勝ち残ってきた入選作品は、写真上達をめざす方々にとって基本的な表現力を備えた、とても良いお手本ともいえるでしょう。ただ昨今、撮影技術は平均的に高くなった一方、独自の視点による被写体の発見やその表現方法においては、残念ながら個性的な作品がいささか減ったようにも思えます。
言い方を替えれば「上手だけれど、どこかで見たような写真」が多くなった、という印象でしょうか。優れた写真表現には基礎的な撮影技術と表現力に加えて、あなたにしか撮れないオリジナリティーも大切です。そんな思いから、今回は特に個性的な作品をピックアップしてご紹介したいと考えました。ご一緒にこれらの作品から〝あなただけの写真作品を生み出す〟ためのヒントを探してみましょう。総合写真展 審査員板見 浩史先生

ジャンルを越境する写真が生む個性

〝風景写真〟とか〝人物写真〟と呼ばれるジャンル(分類)があります。でも特定のジャンル専門のプロ写真家は別として、写真愛好家の私たちはジャンルにこだわらず〝自分らしい写真〟を撮ることが歓びのはず。あまり撮影ジャンルの決まりごとやセオリーにとらわれることなく、自由な発想と好奇心を駆使して撮影してみましょう。むしろ○○写真という枠からはみ出た作品にこそ、個性や面白さが宿る場合が多いようです。

鈴木貞治さんの作品
「双子にアマハゲ参上」
照明と黒バックで祭事を肖像写真に変える
東北でも地域によっては〝なまはげ〟を〝アマハゲ〟と呼ぶようです。祭り写真というより、まるでスタジオで撮影したように鬼の面と赤ちゃんの表情が的確に写し撮られています。並列ではなく少し上下にずらした画面配分、上からの的確なライティングが、まさに行祭事写真から子供のポートレート撮影へと越境して成功した一例と言えるでしょう。フレーミングを切り詰めて背景を完全に全黒バックとしたことも功を奏したようです。
青木義隆さんの作品
「ねえ、いっしょにあそぼうよ」
よくある水族館写真にはない創意と工夫
最近の水族館は水槽も大きく魚種も多彩で、フォトジェニック(写真的な見栄えの良いこと)な場所となっています。とはいえ一般的な子供や親子の観客との組み合わせだけでは、個性を発揮する作品にはなりません。この作品は女性にモデルのようなファッションとポーズを付ける工夫によって、あたかもモード写真かCM写真のような新鮮味をプラスすることに成功。ちなみに撮影機材は「アイフォン」ですが、画質は充分。センスと工夫が勝利のカギ。黒い額縁効果をきちんと生かすことでも作品効果を高めています。
木村正吾さんの作品
「かくれんぼ」
童話のような新しい視点からの写真世界
不思議な魅力にあふれ、新しく個性的な視点から表現された世界観にはとても共感を覚えます。毒キノコのベニテングダケが人間に見つからないように岩陰にひっそり身を潜めている姿がとても可愛いですね。人間の視点から捉えた自然の生き物は数多くあれど、キノコから見た人間も含めての自然環境というところに着想のユニークさを感じます。ただのネイチャーフォトではないこの小さなドラマは、作者にしか見つけられなかった世界だと思います。
伊藤正樹さんの作品
「みなもを彩る」
鉄の構成と光が生み出す人工美の世界
ひと頃人気を呼んだ工場夜景にも通じますが、こうした作品はさらに広い視点から継続的なテーマとして、多くの写真家にも取り組んで頂きたいジャンルだと思います。自然だけが美しく人工物がそうでないという二元論ではなく、人間の感性はその両方に感応できるはず。人工物をデザインする人の心にも〝美〟は当然存在するからです。作者のこの作品を眺めて、美しい自然風景のように癒される人も数多くいるに違いありません。

掲載した作品は、第29回総合写真展の入賞作品から、解説上の参考例として板見浩史先生に任意で選出していただいたものです。
作者の皆様には、この場を通じて厚く御礼申し上げます。