この総合写真展には毎年たくさんの応募作品が応募されてきます。大きく分けると「自然風景(草花も含む)」「動物や小さな生き物」「都会や人工的な風景」「人物のスナップやポートレート」など。さまざまな個性の審査員の眼を経て勝ち残ってきた入選作品は、写真上達をめざす方々にとって基本的な表現力を備えたとても良いお手本ともいえます。ああこんな写真を撮ってみたいなあ、自分だったらこんなふうに撮りたい…など、ただ眺めるのではなく自分の興味と関心に引き寄せて鑑賞・分析することによって、あなたの写真表現力をさらに高めてくれるに違いありません。ご一緒にこれらの作品から上達と入選のためのヒントを勉強していきましょう。総合写真展 審査員板見 浩史先生

モノクロームやモノトーンで表現する世界

いまやカラーが当たり前のデジタル写真の世界ですが、写真の草創期からフィルム時代の初期まではモノクローム(白と黒およびその階調)による表現が主流でした。カラー表現が主流になったいまも、同系色の濃淡や明暗で構成された作品をモノトーンと呼んで活用することもあります。いずれも写真にとって重要な表現方法であり、基本は“光とコントラストと諧調(かいちょう)を活かす”ということに変わりはありません。白黒や単色系の世界ならではの表現から学んで個性的な作品づくりに生かしてみましょう。

奥村洋司さんの作品
「みんなが見つめる」
色彩も説明も不要の写真の原点
撮影地はラオス、子供の路上床屋さん。客である強面(こわおもて)のオジサンの髪を刈る男の子のおっかなびっくりな仕草と表情がこの写真の命です。色彩もここでは必要ありません。フレーミングと画面配分も無駄がなく完璧です。説明も必要ありません。周囲の子供たちの視線をたどって自然にオジサンと男の子の手元へ。それだけでジワジワと可笑(おか)しさが湧きあがってきます。
風巻宏之さんの作品
「with you」
都会の上下の空間を活かした影絵作品
若いカップルの日常を巧みに切り取った上質なスナップショット。二人の実像シルエットと大きく伸びた影の二つによって虚実(きょじつ)のいずれにも命を吹き込みました。マンションの上階から狙っていたのでしょうか。都会の片隅で発見したチャンスを逃さず、一瞬にしてメルヘン的な影絵に変換した手腕が見事。
小林望光さんの作品
「冬の終わり」
早春の繊細な季節感を青一色で表現
厳冬の湖に張った氷も日毎近づく春の足音にだんだんとその厚みを減らします。俳句では薄氷(うすらひ)と呼ぶこの(はかな)い自然現象を見事に映像化されていて感心します。上部の濃いブルーの部分から白い薄氷を挟んで下の部分はやや明るく(さざなみ)に揺らいでいます。青一色の繊細な季節感に反応された作者の感性に敬意を払いたくなるほど素敵な作品です。
大川直子さんの作品
「磯の朝焼け」
金色の海と気嵐が創り出す幻想世界
海から立ち昇る水蒸気が陸上からの冷たい風によって生じる霧(気嵐)。そのドラマチックな瞬間を切り取って見事に作品化しました。ピントもシャープで、ハイライト部からシャドー部までの豊かな諧調(かいちょう)が余すところなくリアルに再現されているため、じっと眺めていると霧が動き立ち昇るようにも見えます。ポイントは釣り人のシルエット。手前の二筋の波も画面を引き締める良いアクセントになっています。

掲載した作品は、第28回総合写真展の入賞作品から、解説上の参考例として板見浩史先生に任意で選出していただいたものです。
作者の皆様には、この場を通じて厚く御礼申し上げます。