この総合写真展には毎年たくさんの写真作品が応募されてきます。大きく分けると「自然風景(草花も含む)」「動物や小さな生き物」「都会や人工的な風景」「人物のスナップやポートレート」など。5人の審査員の眼を経て勝ち残ってきた入選作品は、写真上達をめざす方々にとって基本的な表現力を備えた、とても良いお手本ともいえます。ああこんな写真を撮ってみたいなあ、自分だったらこんなふうに撮りたい…など、ただ眺めるのではなく自分の興味と関心に引き寄せて鑑賞・分析することによって、あなたの写真表現力をさらに高めてくれるに違いありません。ご一緒にこれらの作品から上達と入選のためのヒントを勉強していきましょう。総合写真展 審査員板見 浩史先生

人の心に作用する色のチカラ

人間の感性に色は重要な影響力を与えると思います。たとえば朝、空を見上げた時にスカッと晴れていれば爽やかな気分が生まれ、美しい夕暮れの色を見れば穏やかな気持ちで一日が終わる。それは人間の原始の記憶色とも言え、現代人はそれほど単純ではないかもしれませんが、撮影者にも写真を見る人の心にもそうした心理作用を生む効果は間違いないようです。

横井孝博さんの作品
「初凧よ!勇ましく舞え」
空の濃度を的確に再現したことが勝因
凧揚げ撮影の要点をしっかりつかんで構成された、とても完成度の高い作品。縦位置構図をフルに活かしてたくさんの凧をフレームに収めたこと、PLフィルターも併用して青空の濃度を再現した露出設定、どれも見事です。画面下部を木立できちんと押さえたことで画面に安定感も生まれました。特に左の赤い大旗が風の動きも伝えており、絶好の色彩ポイントとなって良い効果を上げています。
建部隼人さんの作品
「黄昏のひととき」
夕景の色が盛り上げる親子の情愛
子供を抱き上げる仕草は写真の絶好のシャッターチャンス。しかしその背景によって鑑賞者に伝わってくる印象は大きく異なってきます。青空を背景にした場合と違い、夕方の柔らかい色彩はやがて帰宅して団欒を楽しむ親子の姿、あるいは家族の小さなストーリーにさえ想像を及ぼすこともあります。写真撮影におけるTPO(時・場所・状況)の大切さを改めて教えてくれる写真です。左右の猫と犬のシルエット(作り物のようですが…)も不思議で、作品の内容を広げてくれますね。
小林千尋さんの作品
「五月の雨」
しっとりと心安らぐ緑の空間演出
画面構成、登場人物の選定、シャッタータイミングなど、たいへん完成度の高い作品。画面の多くを占める樹木のスペースによる効果もあって、見る人に与える癒し効果もたっぷりです。前に向かってゆっくりと歩を進める女性のシルエットもエレガントで雰囲気に合っています。青い傘と緑は敷石の赤の反対色(補色)になりますが、前面からの柔らかい逆光と雨がうまく和らげてくれました。中望遠レンズの上手な使い方に感心します。
今関良樹さんの作品
「さあ、光の中へ」
渋めの色彩と光を活かして都会を活写
スペインのバルセロナでの撮影とか。渋い中間色のみのシンプルな色彩だけで都市の空気感をうまく切り取りました。ひとりの女性が颯爽と店の外に出て行こうとする瞬間を見事なタイミングで写し止めて、画面の求心力を作り上げています。その頭上に書かれている大きな白い文字も力強く作品内容に貢献しており、店外から差し込む光が人物全員をラインライトで浮立たせるなど、すべてが映画のワンシーンのように高い完成度で構成されていて、驚かされる作品です。

掲載した作品は、第28回総合写真展の入賞作品から、解説上の参考例として板見浩史先生に任意で選出していただいたものです。
作者の皆様には、この場を通じて厚く御礼申し上げます。