この総合写真展には毎年たくさんの応募作品が応募されてきます。大きく分けると「自然風景(草花も含む)」「動物や小さな生き物」「都会や人工的な風景」「人物のスナップやポートレート」など。さまざまな個性の審査員の眼を経て勝ち残ってきた入選作品は、写真上達をめざす方々にとって基本的な表現力を備えたとても良いお手本ともいえます。ああこんな写真を撮ってみたいなあ、自分だったらこんなふうに撮りたい…など、ただ眺めるのではなく自分の興味と関心に引き寄せて鑑賞・分析することによって、あなたの写真表現力をさらに高めてくれるに違いありません。ご一緒にこれらの作品から上達と入選のためのヒントを勉強していきましょう。総合写真展 審査員板見 浩史先生

人物撮影で表現力を高めよう

近年、肖像権やプライバシー権への配慮で人物撮影を敬遠される傾向が、アマチュア写真家の方々にも顕著(けんちょ)にみられます。たしかに、人物を特定されるような近距離で見ず知らずの人を撮影するのは問題になる恐れがあります。比較的人物を撮影しやすいお祭りやイベントなどでも、撮影の時にはひと声かけて了解を得たり、コンテストなどに発表する場合はその旨も確認を取る必要があります。しかし人物写真といっても、家族・友人・知人であれば自由に撮影・発表できますし、多少の演出も可能です。実際にこの総合写真展でもそうした作品が上位入賞しているケースが少なからずあります。相手から了解を頂くのが面倒だったり苦手という方は、近しい人をモデルにして、思う存分人物写真で作品づくりを楽しむのが良いかもしれません。

水野英樹さんの作品
「心からあなたへ感謝」
射手と馬の関係を新しい視点で捉える
流鏑馬(やぶさめ)神事は長い歴史を持つ行事ですが、過去に発表された作品の多くは的に矢の当たるハイライトの瞬間のみを目的に撮られたものが多かったようです。もちろんそれはそれで素晴らしい作品になるのですが、この作品はそうした作画意図から離れ行事の後の安らぎと愛馬への労りと感謝が主眼となっています。女性ということもあって射手の表情も穏やかで明るいですね。馬の首筋をそっと手で叩く仕草も優しさに満ちていて、暖色に染まった背景も衣装と響き合い、人と馬の内面を表現しているようです。祭りの写真も「ピークより前後を狙え」と言われるように、この場合もその金言(きんげん)が生きています。
加藤芳一さんの作品
「泥んこ祭り、大漁だ、泥水でかわいそう」
田舎の行事を広角レンズで的確に狙う
泥んこ祭りに合わせて開かれた魚のつかみ取り大会でしょうか。何匹もの大きな鯉を抱きかかえて得意満面の男の子の表情がいいですね。広角レンズで主役を中心に周囲の情景をたっぷり広く取り込んだことで、この場の雰囲気がよく伝わってきます。右上の菜の花や鯉のぼりの連なりなども季節感をさり気なく説明していてそつがありません。思わず子供時代を思い出し郷愁の念を湧かせる写真です。周囲をじっくり見ていくと、写真のお仲間があちこちで子供たちの姿を撮影中なのが判るところはご愛敬。写真そのもので状況を語っているので、タイトルはもっと短く簡潔でよかったかも知れませんね。
市川美幸さんの作品
「青組オーエス」
歓声が聞こえるシャッタータイミング
近年は児童の家族や親戚しか校内に入れない学校が多くなり、運動会は贅沢な被写体となりました。作者はご家族なのでしょう、的確な距離感とフレーミング、そして何より歓声がしっかり聞こえるシャッタータイミングが素晴らしい。それは中央の二人の女の子の口の動きをピタリと捉えているから。その二人の顔と左の男の子の顔とで作る三角形が要となって画面を引き締めています。タイトルからも伺えるように〝青組の味方〟としての立場が子供たちとピッタリ息の合ったタイミングを生んでくれたのかも知れませんね。
安東義彦さんの作品
「元気だった~?」
弾ける若さを超広角でズバリと表現
お祭りで久しぶりに友達と会った女性たちでしょう。屈託(くったく)のない笑顔と輝くような若さを全身から発散しています。作者は(おく)せずそこへ34mmの超広角レンズで切り込んで行きました。両側の女性は画面からはみ出すくらいに…。この勇気のおかげでこの場のエネルギーを余すところなく切り取ることができました。逆光撮影でのプラス補正のため肌も明るく美しく再現され、若さが一層引き立っています。群像構成も巧みで、人物が重なることなく主役・脇役の配分も明確にできています。
井澤正子さんの作品
「こんにちは」
少女の心理がブルーの色調に映える
水族館写真はいまだに人気が高く、衰えることがありません。身近な人物と組み合わせて非日常的な世界を写すことができるからでしょう。けれどもどこかに作者なりのオリジナリティーが発揮されていなければ評価にはつながりません。この作品は少し寂し気なマスク姿の少女に向かって、イルカの口が「こんにちは」と語りかけ励ましているような瞬間を捉え、両者のコミュニケーションを表現している点が良いと思います。ブルーの色調が印象的で美しく、両者の姿がどこか童話的なストーリーやメッセージを含んでいて心に残る作品です。
徳田好廣さんの作品
「霧の中に」
オーソドックスな〝藝術寫眞〟の趣を再現
たいへん格調の高い作風を備えた写真で、内容にもタイトルにも文学的な香りが感じられる作品だと感心します。秋草の茂る川の堤を歩いて行く人物を包む朝霧と太陽の光芒(こうぼう)。川面には陽の反映が(きら)めいて、人物の行く先を示しているかのようです。こうした霧の発生だけでも千載一遇(せんざいいちぐう)に違いないにもかかわらず、その一瞬にこれだけの画面構成を完成させた撮影技量に敬服。色調は後でセピアに変換されたのかもしれませんが、そのせいもあって戦前の〝藝術寫(げいじゅつしゃ)(しん)〟を彷彿とさせます。その高雅な趣は一朝一夕(いっちょういっせき)に再現できるものではなく、温故知新の賜物ではないかと思います。作者がそうなのかどうかはともかく、ときには先人の残した表現に学んでみることの大切さを教えてくれる作品と言えそうです。

掲載した作品は、第27回総合写真展の入賞作品から、解説上の参考例として板見浩史先生に任意で選出していただいたものです。
作者の皆様には、この場を通じて厚く御礼申し上げます。