この総合写真展には毎年たくさんの応募作品が応募されてきます。大きく分けると「自然風景(草花も含む)」「動物や小さな生き物」「都会や人工的な風景」「人物のスナップやポートレート」など。さまざまな個性の審査員の眼を経て勝ち残ってきた入選作品は、写真上達をめざす方々にとって基本的な表現力を備えたとても良いお手本ともいえます。ああこんな写真を撮ってみたいなあ、自分だったらこんなふうに撮りたい…など、ただ眺めるのではなく自分の興味と関心に引き寄せて鑑賞・分析することによって、あなたの写真表現力をさらに高めてくれるに違いありません。ご一緒にこれらの作品から上達と入選のためのヒントを勉強していきましょう。総合写真展 審査員板見 浩史先生

都会風景で表現力を高めよう

田中詩浬さんの作品
「明日へのだいいっぽ」
象徴的なモニュメントを活かして作品づくり
この作品にはしっかりとした世界観があって〝時間〟と〝自己の成長〟というキーワードが秘められているようです。輝く大きな時計と、光の回廊を歩いてゆく女性がそれを暗示しています。
都市空間の中でこのような題材を求めて作品づくりすることはたいへん刺激的で、写真を面白くする試みだと思います。露出をアンダーに切り詰め大胆に暗部を省略することにより、どこかの虚構の世界のように表現した手法が成功しています。従来からのリアリズムによる都市スナップはもちろん良しとして、この作品のように構想をじっくり練って都市の光景に自分の世界観や想いを仮託する制作姿勢も歓迎したいものです。
根岸純子さんの作品
 
「旅立ち」
船出と恋人の別れをストーリー化する
豪華客船にっぽん丸の接岸。場所は横浜の大さん橋でしょうか。船の手前には寄り添うカップルのシルエット。船、港、男女と三つのお題が揃えば、たいていの人は〝旅立ち〟や〝別れ〟を連想します。作者の付けたタイトルは、それ以外付けようがないほどの大正解です。写真もタイトル通りのムードが漂っていて、縦位置のフレーミングが過不足もなくとても洒落ています。画面下の二人の位置も明るい部分を背にしていて見事に浮き上がりました。大きな船の影から等身大の男女の小さなストーリーがしっかりと伝わってくるような気がします。
植村和彦さんの作品
「ヒトの創りし光」
特殊なボケ効果で不思議夜景を創る
どのような手法によるのか判然としないものの、幻想的で魅惑的な夜景です。リアルに写された大都会の夜景には、それぞれの窓の中に人の悲喜こもごもを想像できるものですが、このファンタジックな夜景の窓の中は皆シアワセ一色で塗り込められているようにも思えます。それはそれで非現実的な、ある意味でオソロシい世界といえるでしょう。作者がもしそんな作画意図をもって制作されたのであれば、きわめて個性的かつ文明批判的な作品と言えるかもしれません。そういえばタイトルにも少しそんな響きが含まれているような気もします。
西谷僖一さんの作品
「悪路の街」
ビルの鏡面の歪みで不安な心理を誘う
近年よく見かける鏡面のビル。格子状に区切られていて、それぞれの鏡面の微妙な差異が全体に不安定な歪みとして増幅されています。作者によるタイトルからも、大きな交差点がぐにゃぐにゃと歪み天変地異に見舞われた大都会、といった印象さえ浮かんできます。ことにふだん整然とした直線で構成されている白い横断歩道の揺らぎが一層その印象を深めます。大きなビル壁面の主要な部分だけを切り取って見せた作者の作画意図もおそらくそのあたりにあるのではないかと思います。「写真は引き算」という言葉通り、主題以外は省略するという骨法を活かした作品です。
吉田正夫さんの作品
「靄掛る港」
風景写真にも〝主役〟と〝脇役〟がある
工場夜景がひところ流行しましたがこちらは神戸港の「港湾夜景」のようです。手前の暗い部分は六甲山の山影でしょうか。ゴージャスな夜景の上部にはオレンジ色にひときわ明るく輝く港湾施設の灯りがアイポイントになっています。手前の大きな夜景の塊が〝主役〟とすれば、海を挟んで奥の方にみえる光の一群が主役をより引き立たせるための〝脇役〟ともいえます。前の作品を引き算にたとえれば、この作品の場合は〝足し算〟が功を奏したことになります。主役と脇役の間に運良く湧いた(もや)がさらに画面の奥行きと遠近感を強調してくれました。
長沼壮一さんの作品
「陽の当たる場所」
街の片隅でポエムを映像化する
どこの街にもある自転車置き場。よく見るとすべて赤い札が付けられていて、処分される不要自転車ということが分かります。光の状態によってはカメラを向ける気にもならない場所でも、ビルの隙間から一条の光が差し込んで、作者の心の指針が動きます。スポットライトを浴びた自転車に生気がよみがえったようにも見えます。その光景を、作者は一編のポエムに仕立て上げました。無機質な都会の片隅も、瑞々しい感性でカメラを向ければささやかな映像詩になるというよい見本。タイトルも優れています。つかのま陽が当たってもいずれは捨てられる運命、というちょっぴり哀しい結末が待ってはいますが…。

掲載した作品は、第27回総合写真展の入賞作品から、解説上の参考例として板見浩史先生に任意で選出していただいたものです。
作者の皆様には、この場を通じて厚く御礼申し上げます。