この総合写真展には毎年たくさんの応募作品が応募されてきます。大きく分けると「自然風景(草花も含む)」「動物や小さな生き物」「都会や人工的な風景」「人物のスナップやポートレート」など。さまざまな個性の審査員の眼を経て勝ち残ってきた入選作品は、写真上達をめざす方々にとって基本的な表現力を備えたとても良いお手本ともいえます。ああこんな写真を撮ってみたいなあ、自分だったらこんなふうに撮りたい…など、ただ眺めるのではなく自分の興味と関心に引き寄せて鑑賞・分析することによって、あなたの写真表現力をさらに高めてくれるに違いありません。ご一緒にこれらの作品から上達と入選のためのヒントを勉強していきましょう。総合写真展 審査員板見 浩史先生

動物撮影で表現力を高めよう

ミラーレスカメラや小型軽量の望遠ズームの登場によって、野鳥や動物の撮影も身近になってきました。街に住んでいても身の回りには意外と動物たちがいるものです。庭や公園には小鳥や昆虫、街を歩けば散歩中の犬や、路地には猫。動物園にはさまざまな生き物たち。水族館でもフラッシュさえ使わなければ撮影できます。物足りない人は郊外や野山まで足を延ばすのも良いでしょう。この動物撮影でも、心がけたいことは個性的な視点と表現です。まずは動物たちに興味と関心を持ちましょう。知ろうとすればするほど生き物たちは新しい〝顔〟を見せてくれるはず。野生の生き物については、むやみに彼らの境域に足を踏み入れることはせず、子育てに悪影響を与えてはならないことは言うまでもありません。

武 治紀さんの作品
「いつも一緒」
観察と予測の先にあるベストチャンス
ある野鳥撮影のベテランの言葉に〝野鳥写真は観察が8割、撮影が2割〟というものがあります。その割合は人それぞれでしょうが、基本的にはそのような比率だと思います。その鳥の生態を熟知することで次の動きを予測することが可能になります。この作品はカワセミの求愛行動。オスがメスに小魚をプレゼントして絆を強める行為です。カワセミ撮影のベテランによる予測のうえとは言え、その瞬間を見事に美しい情況で捉えています。ただ求愛行為を記録するだけでなく、作品化には最適なTPO(時・場所・状況)も必要。二羽を取り巻くほど良い降雪は写真の神様からのプレゼントでしょう。
中曽称正弘さんの作品
 
「啓蟄の紅梅にメジロ」
超望遠ズーム&高速シャッターを活かす
身体も小さく素早い動きのメジロを見事に写し止めています。小鳥と言えどきちんと目にピントが来ていないものは評価されませんが、開いた羽根の動きと共にシャープに描写できました。35mm判換算でおよそ600mm相当の焦点距離を使用して、1/4000秒の超高速シャッターを活かして撮影。超望遠ではそのぶん画角も狭くなりますが、まさにベストな位置に鳥の躍動感を捉えていて素晴らしいと思います。あいにく白っぽい空でしたが鳥の周囲をうまく紅梅で囲ったフレーミングも適切でした。
米田正憲さんの作品
「鼓動」
レンズの圧縮効果で群れの迫力を出す
こちらへ向かって駆けてくる馬の群れ。(たくま)しい脚の動きと共に地響きさえ聞こえてきそうな迫力です。この迫力は望遠レンズの持つ、近くの物と遠くの物を近付けて見せる〝圧縮効果〟を活用したもの。また、前脚が地面から離れた瞬間を捉えたシャッターチャンスもベストです。一頭だけでも躍動感が感じられるのに、こちらへ向かって来る数頭が重なって描写されたためその効果は抜群。画面左右に馬がはみ出でるようなフレーミングもさらに迫力を高める効果を上げています。
金井映憲さんの作品
「Skin Ship」
擬人化を応用して印象を深める
象は知能も高く人間と同じような情愛さえ仲間同士で共有する動物と言われています。それだけに個体ではなく複数の取り合わせで撮られることが多いようです。ただこの作品のように大胆にフレーミングした作品は稀です。あたかも親子や恋人同士が抱擁しているように見せたところに高度な構図意識を感じさせます。飼育舎にいるところでのショットでしょうか、明るすぎない抑制の利いた照明がドラマチックで魅力的。しみじみとした情感をたたえる優れた生き物の肖像と言えそうです。
奥村泰子さんの作品
「門番ねこ」
猫をワンポイントにして国柄を表現
猫という動物は不思議なもので世界中どこにでもいて人間の暮らしに溶け込んでいます。旅行者も猫がいれば条件反射的に撮影します。猫の生活圏にはその国独自の風情や建築様式を垣間見ることもできます。この猫はブータンでの撮影とのこと。日本の猫と変わりありませんが、古びた扉と壁の佇まいが味わい深く、色調も猫の柄と同系色で良くマッチしていますね。丁寧なフレーミングで柱と扉の垂直線をきちんと構成していて猫の存在も引き立ち、この一隅に歴史あるブータン王国の風情も感じられます。
重友淑子さんの作品
「着水」
予想外のポーズでユーモアを誘う
優雅な姿態と飛び方で知られるシラサギも、時として思わぬポーズを見せてくれる時があるもの。この作品がまさにそう。勢いが付き過ぎたのか、脚を突っ張り水面で急ブレーキをかけたようなユーモラスな姿勢で、見る者を楽しませてくれます。こうした野鳥のカットは高速連写で撮られることが多いと思いますが、もしそうだとしたらこのカットを選んだ作者のセレクションセンスも良かったと思います。 背景も暗く落ちて鳥と水の輪の白さが際立ち、背景と右下のグリーンのボケが良いアクセントになっています。

掲載した作品は、第27回総合写真展の入賞作品から、解説上の参考例として板見浩史先生に任意で選出していただいたものです。
作者の皆様には、この場を通じて厚く御礼申し上げます。