この総合写真展には毎年たくさんの応募作品が応募されてきます。大きく分けると「自然風景(草花も含む)」「動物や小さな生き物」「都会や人工的な風景」「人物のスナップやポートレート」など。さまざまな個性の審査員の眼を経て勝ち残ってきた入選作品は、写真上達をめざす方々にとって基本的な表現力を備えたとても良いお手本ともいえます。ああこんな写真を撮ってみたいなあ、自分だったらこんなふうに撮りたい…など、ただ眺めるのではなく自分の興味と関心に引き寄せて鑑賞・分析することによって、あなたの写真表現力をさらに高めてくれるに違いありません。ご一緒にこれらの作品から上達と入選のためのヒントを勉強していきましょう。総合写真展 審査員板見 浩史先生

自然風景で表現力を高めよう

写真愛好家の撮るテーマのなかでも最も人気が高いジャンルがこの自然風景ではないでしょうか。有名な撮影地ではズラリと三脚が並び大勢のカメラマンが朝日や夕陽などのシャッターチャンを狙う光景をよく目にします。意外かもしれませんが、他も含めて多くのフォトコンテストで競争率が高いのが実はこの自然風景なのです。先に述べた、〝有名な撮影地〟〝大勢のカメラマン〟がその理由かもしれません。どんな写真でもオリジナリティー(独創性)が尊重されます。撮影技術が同レベルなら、よく見る写真よりも作者しか撮れなかった個性的な風景のほうに軍配が上がります。有名地でもよいのですが、光や気象など一期一会を味方にして自分だけの風景を目指したいものです。

三浦弘幸さんの作品
「予感」
気象のドラマで日常を〝作品〟に変える
強いインパクトを持つ、まさに出会いの写真。沖合で急速に発達した低気圧でしょうか。海面近くまで下がった雲の底部の辺りはすでに激しい雨脚で真っ暗。自然風景写真、というより珍しい気象を捉えたドキュメントフォト、といった趣です。「予感」というタイトルは簡潔に内容を表現していてとても良いと思います。波打ち際の人物も、風景の添景というより雲のスケール感を引き立てる役割に徹しているようです。自然現象は突発的なこともありますので、いつどこでも撮れるスマホも有力な撮影手段です。最近は想像以上に良い画質が得られる機種もあるので、愛機のカメラを持っていない場合には臨機応変、積極的に活用したいものです。
今井美光さんの作品
「玉響の輝き」
精緻(せいち)蒔絵(まきえ)の工芸品のように表現
枯れて湖に取り残された水没林そのものの作品はよく見ることがありますが、この作品は水面のたいへん美しい色彩が個性的です。俯瞰(ふかん)位置からの撮影なので色の面積も広く、しかも一瞬の風のおかげで、色とりどりの波紋が画面に絶妙なパターンを与えてくれました。黄金色の反映は周囲の黄葉が与えてくれたものだと思いますが、実景は一切入れずに色彩のみを見せて〝錦秋(きんしゅう)〟を表現したところがこの作品の持ち味かと思います。この一瞬の光景を〝玉響(たまゆら)〟と名付けたタイトルにも感心します。
渥美 滋さんの作品
「朝の光」
樹木のうねりを森の生命力として表現
森の印象を自分なりにどのように表現しようかと作者が葛藤した痕跡が伺え、それが作品の個性になっています。苔むし傾いた太い幹と曲がりくねった根。作者はそこを主眼に据えて森の生命感を描出しました。整然とした直線的な木立を遠く背景に、曲線を大きく取り入れたことで森が鼓動し息づいているかのような印象を高めて成功。画面中央の高い部分で輝く太陽の光条も、ここぞ!という、まさに最適なポイントに活かされていて「竜を画いて(ひとみ)を点ず」といった効果を上げていると思います。
鈴木 遼さんの作品
「冬に咲く奇跡の桜」
桜への見立てを画題のセンスで強調
手前の雪原の濃淡のパターンをうまく活かしながら主被写体への視線を導く見せ方が、とてもユニークで洒落ていると感心しました。ともすれば〝遠い〟と感じがちな距離感を逆手にとり、あえて樹氷を〝奇跡の桜〟と見立てる趣向がなかなかにくいところ。広い風景の中で作者だけが発見し、自分なりに料理して作品に仕上げ、タイトル付けした作者の心のプロセスがよく伝わってきます。フレーミングも端正で丁寧で、画面の隅々までじっくりと気を配られたことが感じられ、好感が持てます。
土方保造さんの作品
「風光る(箱根芦の湖)」
思い切った省略と強調でオリジナリティーを出す
タイトルを見て初めてこの作品が、あの有名な芦ノ湖だということを知ったほどでした。作者の作画姿勢は、有名地を…ではなく、自分の心に響いた風景を…にあったことは間違いなさそうです。思い切ったアンダーな露出で湖面の輝きとディテールの美しさのみを強調し、周囲の湖畔一切を暗部として省略した割切りの良さが、スケールの大きな独自の風景を創り出しています。ゆったりとしたS字構図の下部に枯れ枝の影がシャープに描写されていて上質な日本画のような趣を添えています。
廣田敏行さんの作品
「アーベントロート」
人家との対比で山の大きさを際立(きわだ)たせる
スイス・グリンデルワルトでの撮影とのこと。圧倒的な岩山の威容がたいへんダイナミックな画面構成で捉えられていて迫力があります。黒々とした中央部の山容、赤く染まった岩と雲の激しい動きが画面からあふれ出るような重量感を感じさせる写真。画面の下部に絶妙なバランスで撮り入れられた人家や牧草地とのスケール感により、対照的に山のボリュームがより大きく際立って見えます。切り詰めた露出設定により夕焼けに染まる赤い山肌にも深みが出て、それが青空との強い色彩コントラストを得て作品の力強さとなっているようです。

掲載した作品は、第27回総合写真展の入賞作品から、解説上の参考例として板見浩史先生に任意で選出していただいたものです。
作者の皆様には、この場を通じて厚く御礼申し上げます。