子どもの持つ最大の魅力は〝感情と表情の素直な発露(はつろ)〟です。顔の表情や身体の動きからあふれ出る生への喜びは私たちの最も共感しやすい感情であり写真の題材としてももっとも写しやすく身近なテーマと言えるでしょう。とはいえ近年は子供の撮影は親権者の同意や配慮が不可欠。ご自分のお孫さんやお子さんでない場合は、常識とマナーを保って撮影することが求められます。それらをクリアしたうえで、この魅力的な被写体にチャレンジしてみましょう。総合写真展 審査員板見 浩史先生

群像の中で子どもの魅力を引き出す

片岡健さんの作品
「ヨチヨチ歩きで踊り出すウイグルの子」
周囲に見守られる存在として画面構成
幼児の可愛い仕草と表情をタイミング良く捉えています。それだけではなく社会の一員として大人たちに見守られながら大切に(はぐく)まれていることが周囲の眼差(まなざ)しと環境から良く伝わってきますね。足元の絨毯(じゅうたん)を広く撮り入れたことで色彩感あふれる作品となりました。どんな環境に生きている子供か、という情報はその作品の理解を一層深めてくれる大切な要素になります。
佐藤泰彦さんの作品
「笑顔は万国共通」
切り取りの簡潔さで引き立つ笑顔
この土地の厳しい風土感をしっかり描写しながらも、屈託(くったく)ない子供たちのたくさんの笑顔を画面いっぱいに切り取った作品。峠道(とうげみち)を知り合いでも登ってくるのでしょうか、カメラ目線でなく皆同じ方向を向いて笑っているところに自然で和やかな雰囲気が生まれました。右端の子の存在感が効いていますね。群像の中にもポイントになる子供の役割が大きな役割を果たしています。

子ども撮影に最適な公園の環境を活かす

齊田将一さんの作品
「はじめてのシャボン玉」
望遠系レンズで子供たちを浮き立たせる
140㎜の望遠系ズームレンズで高速シャッターを使用し、前後の綺麗なボケで子どもを浮き立たせた手法が成功しています。ローアングルで子ども目線にしたことも表情がはっきり出て効果を上げています。連写した中からのセレクトでしょうか、シャボン玉を捕まえようとするシャッターチャンスが的確で、画面の右から左へ吹く風も画面に動きを与えてくれました。
溝口忠憲さんの作品
「おそうじのじゃま!」
子どもの動きを重ねて効果倍増
子どもの動きは一人だけでも可愛いものですが、ふたつの動きが重なって倍加することもあります。手前の子のお掃除をするような動きに後ろの子が落ち葉を放り投げた瞬間をタイミング良く重ねて成功させました。子供の動きを辛抱(しんぼう)強く観察しながらシャッターを切り続けた成果でしょう。手前の子の顔が暗くならないように設定された露出も的確でした。
西脇克己さんの作品
「ホップステップ」
次の動きを予測させる巧みな構図
俯瞰(ふかん)気味のアングルから完成度の高い構図を作り絶好の登場者を待った段階で、すでに作品の90パーセント以上が完成した作品。現れた子どもの桜に響き合う色のシャツといい動きといい、作者の予想をはるかに超えた結果を与えてくれたようです。渡り始めでシャッターを切ったことで渡り切るまでの動きを、見る側が心の中でイメージし〝作品鑑賞の余韻〟が生まれます。春爛漫(はるらんまん)の静かな場所で少年の動きだけがリズムを作り出しているという、なにか上質な掌編(しょうへん)小説さえ思わせる写真と言えそうです。

祭り・イベントで見つける子どもの魅力

梅村武四郎さんの作品
「どろ顔 親子」
子どもの可愛さを大人との対比で見せる
子どもの可愛さは表情や仕草だけでなく大人より小さい体格にもあります。そこが愛おしさや憐憫の情などを生み、写真を見る人の感情移入を誘います。この作品もそうしたところをうまく映像化して成功。画面の9割をお父さんの顔と身体が占め、残りの片隅に子どもの顔を残した構図がその可愛さを引き立たせています。全体が真っ黒に近いトーンで塗りつぶされた中で子どもの笑顔と白い歯が際立つという、フレーミングのうまさがとても印象に残る作品です。
秋元敏行さんの作品
「ゼンマイ仕掛けの人形 それとも人間?」
子どもの好奇心を写真で見える化
公園のイベントで行われた、人間が人形のように動くパフォーマンス。その不思議さを自分の眼で見極めようとする少女の真剣な眼差しと仕草を絶妙な位置から写し止めていて感心します。的確なフレーミングにより状況説明と主役の子どもの存在感をうまく拮抗(きっこう)させているところが非常に(たく)みです。子どもの持つ純粋な好奇心をストレートに写真で表現した力作だと思います。
永田淳子さんの作品
「神楽大好きっ子」
後ろ姿で少年の内面を表現
子どもに限らず時として人の後ろ姿は雄弁に内面を語るものですが、この作品からは少年の神楽(かぐら)に対する興味や憧れが(にじ)み出ていると思います。固い石の上にもかかわらず、きちんと正座して膝に手を置いたその姿勢から「大人になったら自分も…」という伝統行事へのリスペクトが感じられると言ったら言い過ぎでしょうか。少なくともそうしたきちんと(しつけ)を受けて育った日本の少年ということは間違いないようです。きれいに揃った黄色い靴裏も可愛らしく、視覚的な良いアクセントになっています。

掲載した作品は、第26回総合写真展の入賞作品から、解説上の参考例として板見浩史先生に任意で選出していただいたものです。
作者の皆様には、この場を通じて厚く御礼申し上げます。