写真の動感描写には大きく分けて、ハイスピード(高速)シャッターとスロースピード(低速)シャッターの二つの方法があります。前者は対象と周囲の動きをピタリと止めて動きを表現するもの、後者は周囲のブレ効果などを利用して対象を引き立たせるもので、それぞれの動感表現を使い分けることによって主被写体(主役)の活かし方も変わってきます。近年は比較明合成による星景や夜景撮影なども一般的になっていますので、そうした撮影法を駆使して自身の写真表現を広げていただきたいと思います。総合写真展 審査員板見 浩史先生

ハイスピードシャッター撮影を例に考える

小柳充輝さんの作品
「海馬」
手前の波の描写で迫力アップ
超広角レンズで主役にうんと近付いたことですごい迫力が得られました。手前の波の精緻(せいち)な質感描写、雲の広がりとボリューム感。撮影データを見るとiPhoneだったこともあって、二度ビックリ。ちなみにシャッター速度は1/1250秒。スマホでも(いや、だからこそ?)これだけの画質と迫力のある作品が撮れるので、その使い分けによって写真愛好家にとっては福音とも言えるかもしれません。
岡本満幸さんの作品
「躍動」
空中静止で克明な存在感
踊りのクライマックスを感じさせる見事なスナップショット。地面からの高さで跳躍力のほどが想像されます。高速シャッターならではの表現です。お囃子連(はやしれん)を真後ろにずらりと一列に配した構図にも計算が行き届いています。背景の樹木のハイライトが強すぎて衣装の白と干渉し少し見づらくなったことが、やや惜しまれるところです。
小山千久良さんの作品
「初体験」
滝行の厳しさ飛沫で表現
同様の作品が今回は他にもいくつかありましたが、この作品はやや高速よりのシャッターで写し止めた飛沫の迫力とハイライト部の輝きが特に印象に残りました。また、大人と一緒に滝に打たれる少女の姿が健気(けなげ)で、それをかばうかのような姿勢の修行者の内面が感じられるようなところも魅力でした。
栗原昭子さんの作品
「散華舞う(聖徳太子1400年遠忌)
散華とともに一陣の風も描写
法隆寺で行われた聖徳太子の1400年御遠忌(ごおんき)の法要。蓮の花弁を形どった散華が一斉に撒かれた瞬間に一陣の風が吹き抜け、寺院の五色幕も舞い上がりました。その瞬間を1/2000秒で写し止めたことで、神聖な行事そのもの以外の〝何か〟が表現できたのが、この写真の感動ポイント。法要全体が主役ですが、それをいっそう引き立てた要素は作者のシャッタータイミングと事前の速度設定でしょう。
近藤晋一朗さんの作品
「激流のジャンプ」
ジャンプのピークを捉えたうまさ
自然と一体になって楽しめるスポーツ「ラフティング」。望遠レンズと早いシャッタースピードが迫力を捉えるポイントです。それに加えてこの作品の良いところは大きな波に乗って舳先(へさき)が持ち上がった瞬間をつかまえたところ。先頭の選手の表情、バランスをとる各人の姿勢、ボート全体を包む大量の飛沫それぞれを克明に写し止めることができました。背景が岩の暗部となったことも、飛沫が明瞭に浮かび上がり幸いでした。

スローシャッター撮影を例に考える

明楽俊應さんの作品
「寒立馬(かんだちめ)
雪を流して厳しさを表現
青森県尻屋崎の寒立馬(かんだちめ)の暮らす環境を、余すところなく表現した作品です。吹き荒ぶ大粒の雪を1/20秒のスローシャッターでブラして厳しい風雪を描写しているところがポイント。背景の暗部と馬の大きな体に雪の白が浮き出し、美しいコントラスト模様を描き出しました。馬の動きはゆっくりなので、低速シャッターでも主役としての体の毛並みやディテールはしっかり再現されています。
矢野恵一さんの作品
「灯篭踊り街を行く」
優雅な夜祭を幻想的に描写
熊本県の有名な山鹿灯篭(やまがとうろう)を幻想的に捉えています。とかく夜の行祭事は強いストロボを使うと、光の当たった所だけははっきり写りますが暗部がつぶれ平面的な描写になりがち。この作品は1/4秒のスローシンクロにより発光時以外のブレを巧みに使って、柔らかく幻想的な踊りのイメージを効果的に演出して成功しました。はっきりと描写されたのは正面の二人だけで、列の後方はおぼろげな流れとして省略したところがポイントです。
高尾俊弘さんの作品
「夢を乗せて走る」
流し撮りで主人公だけを浮き立たせる
鉄道写真ではよく使う〝流し撮り〟。列車の速度に合わせ進行方向にカメラを振りながら撮ります。シャッタースピードは低速気味に設定。この作品の場合は1/80秒を選んでいます。高速で走り去る主役の新幹線がシャープに描写されながらも、流れる背景に浮き立つような動感描写で写し止められました。青空にカラフルなボディーが引き立ちますね。
杉浦敏夫さんの作品
「宝石の夜」
夜景と星のコラボに挑戦
北海道函館の夜景と星の軌跡がうまくコラボレーションしました。右下にはロープウエイの写し込まれていて盛りだくさん。比較明合成を使った撮影で、この場合は1回30秒の長時間露光を数十回繰り返して作られた画像のようです。この方法は新しく加わった光点のみを露光していくため、下の夜景のように光点が変化しない部分はそのままです。地球の回転によって露光されていく星の軌跡(きせき)も一種の動感描写と言ってよいでしょう。
橘 英明さんの作品
「森の銀河」
闇をうねる命の輝きを写す
岩手県山方町で撮影されたヒメボタルの作品だそうです。見事な命の輝きです。これも比較明合成による撮影。こちらは5秒の露出を数十回加算して見事な群舞(ぐんぶ)が表現されました。大型で活発に飛ぶゲンジボタルはよりダイナミックな光跡となりますが、小型で動きが少ないヒメボタルはそのぶん光の密度が濃く、幽玄(ゆうげん)な森の闇で見せるこの軌跡もまた得がたい命の動感描写と言えると思います。

掲載した作品は、第25回総合写真展の入賞作品から、解説上の参考例として板見浩史先生に任意で選出していただいたものです。
作者の皆様には、この場を通じて厚く御礼申し上げます。