一枚の写真の中で作者が伝えたい感動ポイント=ふつうは主被写体と言いますが、ここでは擬人化して〝主役〟と呼びます。もちろん劇や映画と違ってそれを一人(一点)に決めにくい場合もありますが、画面の中では主役をきちんと定めたほうが画面構成しやすく作者の意図が伝わりやすいと思います。また、主役そのものが魅力的であるに越したことはありませんが、優れた脇役によって主役がより引き立つこともあります。総合写真展 審査員板見 浩史先生

自然・生き物撮影を例に考える

石川満彦さんの作品
「着地」
両者がどちらもいい演技
花と昆虫の場合はどちらもそれぞれ主役の役割になる場合があります。この作品は明らかに花が主で蝶が従という存在のようです。蝶も動感にあふれていて、花も空のほうを向いてしっかりと存在を主張しています。望遠系のズームで背景を省略しているため役者同士の独演場となり、両者の魅力が十分に伝わってきます。花が美しく見える角度を見つけておいて蝶を待ったことが良い結果を生んだようです。
野本昌寛さんの作品
「黎明」
静と動、遠近の対比が効果的
北海道中川郡豊頃町の海岸で有名な、自然が作った氷の芸術〝ジュエリーアイス〟でしょう。主役である手前の氷が、朝陽の光芒(こうぼう)が透過(とうか)して美しい輝きを放っています。このシーンの撮影ではローアングルが基本ですが、遠く近く見物する人々を絶妙のバランスで撮り入れたことが成功の秘訣です。この場合の脇役である人々のシルエットからも、互いに交歓する様子が想像でき、味わい深い光景となっています。

人物スナップ撮影を例に考える

福田光男さんの作品
「入場」
主役・脇役を逆転させた面白さ
ふつうの結婚式写真ならば当然、新郎新婦が主役ですが、この作品では花や指輪を運ぶフラワーガールとリングボーイが主役。この役が楽しくて仕方がない女の子の笑顔と大役に少し緊張している男の子の表情の対比がとても可愛いですね。記録写真撮影の任務が一段落したら、自分のための作品撮りに狙いを変えてみると、結婚式は傑作(けっさく)の宝庫かもしれませんね。
奥村泰子さんの作品
「僧坊」
美しい光と人物の配置
ラオスの寺院で撮影された少年僧の姿。異国情緒あふれる室内の雰囲気はともかく、瞬時のスナップとは思えないほどライティングと人物の佇(たたず)まいや配置に注意が払われています。特に中央の主役の少年と左の脇役の少年の存在が画面内で重要なポイントになっており、これからストーリーが始まる映画のワンシーンのような効果を上げています。僧衣と壁の赤も刺激的。
金子未来さんの作品
「諸国漫遊」
絶好の脇役を得て想像の旅が始まる
ロケ地は水戸市徳川ミュージアムだとか。面白い場所の発見と主役の方のキャラクターとエスプリがこの作品を創り上げました。こういうジョークフォトは照れずに堂々と信念を持って行うことが成功の秘訣。黄門様の手にそっと手を置いた〝小技〟も効いてますねー。モノクローム表現にしたことも、この非現実世界のリアリティーづくりに一役買っています。それにしても、こんな偉人を〝脇役〟にするなんて!

風景撮影を例に考える

吉野敏樹さんの作品
「永代の屋形船2021」
拮抗(きっこう)する存在感が見どころ
主役は間違いなく近代的な屋形船なのですが、脇役(背景)の佃島高層ビル群の存在にも迫力があります。両者拮抗(きっこう)するバランスがこの作品の見どころで、互いの存在が引き合った瞬間のシャッターチャンスが作品の強さを生み出しました。江戸情緒はまったくなくなりましたが、マジックブルーの残照の下で魅力的な主役と脇役が見せてくれるこの美しい景色は、新しい東京情緒と言えそうです。
田島顯さんの作品
「冬と秋の間」
ひとつの画面に二つの季節
とてもスケールの大きい作品。二つの山の高度差は写真で見るより大きいので手前はまだ紅葉真っ盛りなのに奥の山はもう冬の彩りになっているという不思議な光景を作り出しています。この場合はどちらの描写も素晴らしく、どちらも主役。見る人の好みで決めていただくしかありません。俳句で言えば「山装う」(秋)と「山眠る」(冬)の二つの季語が一枚に同居しています。二つの季節感の衝突が400ミリ超望遠レンズの圧縮効果で得られたことに、自然風景写真での新しい季節表現の可能性を感じた次第です。

掲載した作品は、第25回総合写真展の入賞作品から、解説上の参考例として板見浩史先生に任意で選出していただいたものです。
作者の皆様には、この場を通じて厚く御礼申し上げます。