光は写真の基本。日本ではその昔、写真を「光画」と呼んだほどです。光は影の存在があってこそ引き立つもの。両者のコントラストの中で主被写体をどのように強調するかによって写真の善し悪しは大きく変わってきます。優れた写真作品はもちろんのこと、映画や舞台、絵画なども大いに参考になります。総合写真展 審査員板見 浩史先生

人工的なライティングを例に考える

島袋 進さんの作品
「ぬくもり」
主役だけを浮き立たせる黒バック
画家のレンブラントが肖像画で好んだライティングを応用された作品ですね。やや逆光気味のトップライトなのでヒヨコの輪郭がラインライトで浮き上がり、眼にキャッチライトも入って生命感も強調されています。人物の衣服も背景の闇に溶け込ませ、手だけを主役と組み合わせたことで、タイトル通り小さな生き物の〝ぬくもり〟が表現できました。
長谷川充さんの作品
「5回目の煌き」
ろうそくだけで表現する特別な日
誕生日の素敵な記録です。光源はろうそくだけ。大口径50ミリF1.2の明るいレンズならではの撮影。光源がやや低いので舞台のフットライトと同じ役割を果たし、ふっくらした頬の感じや生き生きした眼やティアラなども輝いて立体的に再現されています。お子さんの大切な記念を撮り終えたら、余裕があれば作品としてもう一歩先を行くために、正面からろうそく越しに表情を狙ってみるなど冒険もしてみましょう。もっとも、あまりしつこく撮ると嫌われるので、そこはほどほどに…。

自然光での人物を例に考える

染井英雄さんの作品
「松明(たいまつ)の行」
炎を際立たせる切り詰めた空間
正確な露出とシャッターチャンスで、暗い場面での神聖な行事をしっかり写し止めています。特に炎の描写が見事で、ぎりぎりまで切り詰めたフレーミング効果もあって、行事の神髄(しんずい)だけを掬(すく)い取ったような印象があります。この完成度にもし動感描写を加えるチャンスがあったとしたら、さらに上位を目指すことができたのではないかと思います。
戸軽邦明さんの作品
「凛(りん)の刻」
広い暗部を活かして人物を強調する
素晴らしいロケーションの中にピッタリな登場人物が、タイトル通りの〝凛〟とした雰囲気を作り上げたクリエイティブな力作です。渓谷から射す逆光気味のトップライトでモデルの息や衣装もくっきりと浮き立ち、澄み切った空気感も伝わってきます。下部をやや多めに入れたことで谷の深さも感じさせます。まさに自然光を最大限に活用した素晴らしい表現だと思います。

風景撮影での光を例に考える

大坪賢護さんの作品
「光の道」
異質な光が交差する幻想的な美しさ
来島海峡大橋をテーマにした自然と人工の光との交響。月光が海面に映える光の帯(月の道)と車の光跡という、まったく異質な光同士が画面中央で交差するユニークで力強い画面構成が目を惹きます。両者の競演も周囲の闇が深ければこその効果。その意味では橋梁の上部をもう少し割愛することによってさらに印象の異なる作品になったと思います。
佐藤涼太さんの作品
「恒常を食む」
天体現象をドラマチックに再現
日食を撮影した異色の作品ですね。一般的には日食現象そのものの正確な記録を重視するものですが、作者はこの現象を日常に降りかかった厄災(やくさい)でもあるかのように、禍々(まがまが)しくドラマチックに表現しているように思えます。高圧線の鉄塔や叢雲(むらくも)が演出効果を上げ、太陽撮影フィルターによる色調変化も、この場合は非日常性を強調していて作品価値のアップに貢献しているような気がします。
木村 充さんの作品
「機能のカタチ」
機体を見せるか天使の階段か
写真には、あえてすべてを見せずに見る人の想像力でそれを見せる、というテクニックもあります。この作品もその一例かもしれません。露出をオーバーにすれば機体は明るく再現されるでしょうが、背景の雲と光芒(俗に言う〝天使の階段〟)は消え失せてしまいます。飛行機のラインライトだけで機能美を表現するというのが作者の選んだ表現。むしろこのほうが写真表現としては作者の意図も伝わりインパクトも大きいことがおわかりでしょう。
山﨑直喜さんの作品
「12月鶴居村の朝」
霧は自然のディフューザー
タンチョウヅルの聖域である、北海道鶴居村。朝の強い斜光が鶴たちのねぐらに射し込んでいます。ほとんどの場合は光と影のコントラストで見せる写真も、ここでは霧という自然のディフューザー(拡散板)のおかげで柔らかい諧調で再現されています。この距離では800mm以上の超望遠レンズでも被写体の鶴たちを大きく捉えることはできませんが、作者は手前の一羽が大きく羽を広げた瞬間を捉え、とても効果的な添景(てんけい)として画面内に活かしています。

掲載した作品は、第25回総合写真展の入賞作品から、解説上の参考例として板見浩史先生に任意で選出していただいたものです。
作者の皆様には、この場を通じて厚く御礼申し上げます。