デジタルカメラが普及してから年数が経ちましたが、デジタルカメラの進化の中で著しいのはISO感度の高感度化と、その画質の向上です。感度の自由度が増したことで、夜の素晴らしい作品が増えています。夜の撮影のポイントについて考えてみたいと思います。
総合写真展 審査員 川合 麻紀先生
写真の第一印象は、画面全体の光、色や明るさから受ける場合が多いです。夜の撮影なら、光るものと、元々のその場の明るさとのバランスをどうするかを考えます。空を入れる絵柄であれば、真っ暗、漆黒の部分が占めるのが大前提です。黒の面積が広ければ、全体的に重厚、かっこいい、寂しい、などの印象になりやすく、カラフルな面積が多ければ華やかで賑やか、鮮やかな印象になります。空だけで考えると、暗くなってから撮るのか、まだ空に色が残るときに撮るのかで色のコントロールができます。
下川床さんの作品は、黒ではなく、まだブルーが残る時間帯に撮ることで、全体がブルーグラデーションに包まれています。人々が暮らす場所、農地などがふんわりと霧に覆われて、淡く発光しているようで幻想的です。スローシャッターで撮ることで車のライトが光跡になり、「家路に急ぐ」という、タイトル通りのイメージが伝わってきます。
酒井さんの作品は、香港の夜市の賑わいを見下ろすアングルで撮影したものです。画面の多くが鮮やかな屋根の色彩に彩られています。お二人の作品はどちらも人の気配のするものですが、特に絵柄に集中せずにパッと見ただけでも、全く違う印象を受けることがわかります。
岩崎さんの作品は、人工物を排除するものが多い風景写真の中で、自分たちのテントの色彩を主役にしているところ、人々の動きも感じられるところなど、人工物でも美しい風景になることを教えてくれる一枚になっています。画面の中に黒の分量は意外とあるものの、テントを手前に大きく入れ込んでいることでカラフルさが際立っています。人々の声が聞こえてきそうです。
有馬さんの作品は、少し明るさの残る時間でしょうか、周囲のグリーンがしっかりと見えて、昼間のようにも見え、その中に、ヒメボタルの光が見えるのが不思議な印象を醸(かも)し出しています。蛍だから、あるいは光が見えるのだから夜だろう、そして夜だから暗い、という常識的な感覚からすると、違和感がある明るさなのが不思議さを増長しています。たくさんの丸ボケは、ホタルの命の輝きですね。素敵な一枚です。
黒の面積をコントロールするには、映り込みを生かしてみるのもいい方法です。水面、ツルツルしたものの反射などが画面内にあれば、もともとある光は倍増して、より賑やかな印象になります。
田坂さんの作品はお祭りでの一コマ。本物と映り込み、ちょうど半分で構成されています。色彩と人々の賑わいが倍になり、狭めの構図で明るい部分が切り取られていて、華やかさがいっぱいです。
植松さんの作品も、撮影場所の選択がいいですね。スカイランタンは、上がるとあっという間に小さくなってしまい、思いの外、寂しい絵柄になりがちです。ランタンが空に上がり小さくなっても、水面を使ってさらにそれを倍にするというアイディアがすばらしいです。
中根さんの作品は、川の両側にライトアップされた桜が並びます。鉄塔を中心としたシンメトリー(対称)な構図もきれいですが、水があることによって光が増え、また、スローによって車のライトのライン、散った花弁のラインが色を添えています。
夜の撮影といえば、花火の撮影も定番ですね。
中曽称さんの作品は、撮影場所の選択が素晴らしく、色とりどりに開いた花火と、水面に写る色彩、湾を囲むような街の明かりでカラフルな作品になっています。黒の面積を減らしているので、光あふれる花火写真になりました。花火のある風景として撮るときは、スローシャッターで、光のラインの長さや、画面に映り込む花火の数などを考えながら撮ることになります。
海渡さんの作品は、花火を背景のボケに使おうという斬新(ざんしん)さです。グラスに写し込む絵柄は割とよくありますが、花火をプラスしたことで特別感が増しています。背景に点光源をボカすと、実際は点なのが丸になり、光の面積が増えるので、華やかさが増すいい例です。
第4回は【夜の彩り】についてお話ししてきました。人が撮らない時間、気候、場所などで撮ることは、出来上がる写真は新鮮に見えますので、チャレンジする価値があります。夜の撮影はデジタルになってから、以前ほどは難しくなくなってきていますので、まずは身近な場所、例えば家のベランダからの星撮影や、通勤途中の景色などから始めてみてはいかがでしょうか。
※掲載した作品は、第24回総合写真展の入賞作品から、解説上の参考例として川合麻紀先生に任意で選出していただいたものです。
作者の皆様には、この場を通じて厚く御礼申し上げます。