写真の露出は、「絞り」と「シャッター速度」と「ISO感度」の組み合わせで決まります。組み合わせによって、写真の写り方、出来上がる絵が変わります。現在のカメラは、これら3要素の組み合わせを全部カメラ任せにすることもできます。シャッターチャンスだけに集中したい、ということならフルオートは便利です。見た目と違う写りによって自分の想いを表現したい時や、どうしてもブラしたくない、とか、背景を整理したい、など、最終の絵柄をイメージできているのであれば、それに適した数値を自分で決めます。まずは、何をどのように写したいのか、何を優先させるのかを、撮る前に自覚することが大事です。今回はシャッター速度の選択についてお話ししましょう。
総合写真展 審査員 川合 麻紀先生
シャッター速度を速く設定すると、動きの速いものはピタっと動きを止めるのに、最低でも1/500秒以上必要です。動きの途中の形の面白さや美しさ、動いている人の表情がしっかり見えれば気迫や想いを表現できます。
船井さんの作品は1/1000秒で捉えた、空中浮遊写真。ふわっと浮かぶ姿は重力を感じさせず、不思議な感じがしますね。実はやってみると意外と難しいです。飛ぶ人の姿勢にコツがいりますし、背景もどこでも良いわけではありません。撮影も被写体もご自身だそうなので、作品のふわり感とは違い、撮影は結構過酷かもしれませんね?
堀内さんの作品は、バレエのワンシーン。どのタイミングで止めるか、重要なところです。特にメンバーが複数いる場合にはベストタイミングで撮るのは至難の技。きれいな瞬間を捉えています。笑顔、指先などの形がきれいに止まるように撮るにも、速いシャッター速度が必要です。
鈴木さんと齋藤さんの作品は、被写体自体の動きだけでなく、サブのものの動きも止まることで、臨場感がより感じられます。鈴木さんの作品は、1/5000秒で撮ることで、水滴が粒立ち、色を拾ってブルーグリーンの宝石が、体の動きに合わせて踊っているようです。齋藤さんの作品は、足の動きとともに泥が舞い、馬の息づかいが聞こえてきそうです。こうしてじっくりみられるのも静止画ならではですね。ただ、しっかりと動きが見えてしまうだけに、シャッターチャンスをものにできるかが、作品としての良し悪しを分けるとも言えます。
遅いシャッター速度で撮ると、動く被写体は動きが流れて写るようになり、目で見るのとは違う絵になります。どれくらいのシャッター速度でブレるようになるのかは、撮影距離や被写体の動きの速度で変わりますので、いろいろなシャッター速度で試してみるとよいでしょう。明るい場所では、単純に3つの要素の調整だけではスローにならず、光量を落とすためのNDフィルターが必要になります。
上杉さんの作品は、薄暮の時間、カメラは固定し、長時間シャッターを開けることによって、走る車のライトを光跡として撮った作品です。画面の中に動くものと動かないものが混在すると、動かないものはそのまま、たくさん動いたものは、そのもの自体が写らずに光だけがラインになって写るので、目で見た景色とは全く違うものになります。暗い方が、長時間はやりやすいですが、明るい時間でも、濃いNDフィルターを使うと、人が動いてさえいれば、「誰もいない街」のようなイメージを作ることもできます。
齋藤さんと水野さんの作品は、スポーツでの一コマ。動いている部分を少しブラすことで、動きが残像になり、筆で書いたような、不思議な躍動感になります。全部をブラすのか、一部止まる部分を作るのかでイメージが変わりますし、画面を固定してブラすのと、動きに合わせてカメラを動かしながらブラすのとでは写真に違いがでます。フェンシングの写真は画面固定、スケートの写真はカメラを動かしています。
福田さんと大宅さんの作品は、水の動きをスローで捉えたものです。水といえば、渓流や滝をスローで撮るのが一般的ですね。海も表面に動きがあるので、スローにするとふわっと静かな感じになります。福田さんの作品は70秒だそうです。大宅さんの作品は水滴を落とし、跳ね上がる一瞬を撮ったもので、1/6秒。いつも見るのとは違う水の描写と、水面の光のラインが不思議な感覚を呼び起こします。どこらへんの秒数が気持ちよく見えるのか、正解はありませんので、試行錯誤するのも楽しい作業になるはずです。
第3回は、【シャッター速度の選択】についてお話をしてきました。シャッター速度を決定するときは「シャッター速度優先モード」や「バルブ」で撮るのが一般的です。絞りやISO感度との組み合わせで露出は決まるので、その場の明るさによっては組み合わせ内でうまくいかないことがあります。その場合には、スローにしたい場合にはNDフィルターを使う、高速シャッターにしたい場合には撮影場所を明るくする、あるいは明るいレンズを使う、などの工夫をしながら挑戦してみてください。
※掲載した作品は、第23回総合写真展の入賞作品から、解説上の参考例として川合麻紀先生に任意で選出していただいたものです。
作者の皆様には、この場を通じて厚く御礼申し上げます。