撮影と応募の前にぜひ覚えておきたい― 上位作品に見る上達と上位入賞のための表現ポイント

 被写体をとらえる時、どこから撮るか、どの向きで撮るか、でどんなイメージになるのかを考えてみましょう。体の向きだけでなく、目線の向きが大事なポイントになります。

総合写真展 審査員 川合 麻紀先生



Point4 体が真正面、あるいは目線が正面、こちらに向いている状態

面での撮影、顔がこちらに向いている状態は、強い印象の写真になります。さらに、視線が合うと印象がもっと強くなります。例えば、選挙ポスターの写真を見てみると、黒目が真正面なことがわかります。これは見る人と目線が真っ直ぐに合うように考えられているからです。こちらを見つめる目がそこにあると、見る人の視線は最初に目に向けられます。まさに、目力といったところでしょうか。目線が正面だと、斜めからポスターを見ても、何故か目線が合うような感じがしますね。 体の向きだけがこっちに向かっている場合も、目線ほどではありませんが、強さが表現できます。少し体が横に向いてる写真は、目線がこちらにあれば強い写真になります。

上掛周平さんの作品「父の卒業式」

 上掛さんの作品は、強い目線が印象的です。この方の想いを想像し、また、撮影者の想いまで想像してしまいます。そして見る人(今の場合、わたし)の目の奥まで覗かれたような気持ちになりザワザワしました。写真だけでも十分強いのですが、コンテストなら、タイトルとかコメントなどで、撮影者と被写体の関係性の情報が少しでもあると、見る人が心を入れやすくなるのでオススメです。

鳥越英次郎さんの作品「編隊飛行」

 鳥越さんの作品の被写体は戦闘機。フォーメーションの美しさ、スモークの形状のインパクトと共に、こちらに向かって真っ直ぐに飛んでくる感じがたまりません。人物でなくても目線が合う感じは強さがあります。「操縦している人たちと目が合ってしまうのではないか」と、見る人が思えるように撮れたらすごいですね。

水野英樹さんの作品「全的命中達成」

 水野さんの作品もなかなか撮れない正面から。正面からならではの奥行き感やボケの美しさはもちろん、女性の視線も真っ直ぐで、爽やかな一枚です。

Point5 横向き、あるいは目線がこちらにない状態

を向いている、目線がこちらにない写真の場合、被写体は、こちら(撮る人)には関心はなく別のところにある印象になります。目線が遠くを見つめているなら、その目線の先には、誰かがいたり、何か関心ごとがあるわけで、それが画面に映っていれば関心ごとがわかりやすく、画面外にあるなら見る人が想像することを想定している写真になります。

鈴木明久さんの作品「いつでも、どこでも」

 鈴木さんの作品は、画面内に他の方の腕などがありますね。すぐ近くに誰かがいることがわかります。この構図ですと、撮る人はこの子だけを見つめる感じがして、この子の仕草や笑顔を、撮影者が愛しいとシャッターを切ったのだろうなと想像しました。

新治佳奈さんの作品「静謐」

松岡弘明さんの作品「素敵なミュージシャン」

 新治さんのと松岡さんの作品は、横向きで、なおかつ目をつぶっている状態です。横を向いているだけでなく、目をつぶっている場合には、その方は心のうちに入っている感じがするので、見る人は想像力を掻き立てられ、被写体の気持ちを想像することになりますし、被写体からの目線の圧力がないので、じっくり被写体を観察することができます。新治さんの作品は、暗いトーンの中で美しい横顔が浮き上がっています。思わずじっくりと見たくなる、空気感が魅力です。松岡さんの作品は、音楽を奏でているシーンなので、音の世界を旅しているのかもしれませんね。実際その場にいて音楽を聴いているような気持ちになります。

Point6 後ろ向き、背中

ろ向き、背中側を捉えた写真も多く見られます。バックシャン(後ろ姿が美しい女性のこと)という言葉もあります。後ろ姿だからこその美しさというのもあると思います。ただ、前向き視線ありと比較してしまうと、インパクトは弱くなるので、背面だからむしろ素敵に見える、という程の魅力の要素が必要です。

梁井英雄さんの作品「舞、終えて」

 梁井さんの作品は、光の陰影が美しいですね。巫女たちの整列の様子だけでも印象的ですが、たくさんの中の一人だけが光に浮かび駆け出す瞬間です。厳かな空気感と、普段の可愛らしさが混在していてパッと目がいきます。

秋山輝一さんの作品「薫風の誘い」

 秋山さんの作品は、こちらも光と色が美しく、シンメトリー(対称)の構図が気持ちの良い作品。女性は後ろ向きでとても小さいのですが、光の当たり方、ワンピースの裾がひらっとする瞬間など、十分存在感があります。

伊藤正さんの作品「花街詩情」

 伊藤さんの作品は、顔は横向き、姿は後ろ向き。扉の格子という障害物がありますので、本来は絵作りとしては難しいタイミングです。しかし、光が人物を浮き上がらせていることで、むしろ印象が強い写真になっています。

第2回は【正面か後ろ姿か】をテーマにお話してきました。こうしていくつかの作品を見て言えることは、全体の構図の美しさ、光の状態、シャッターを押すタイミングなどが揃えば、後ろ姿でも正面向きに負けない強さが得られるということです。むしろ、後ろ姿だからこその美を表現できているのではないでしょうか。顔が見えないからこそ、想像力が掻き立てられる、とも言えます。今回は、被写体の向きや視線の向きについて考えてみましたが、構図と同じく、どのように感じたか、あるいは見る人に感じさせたいかということを考えながら、どの向き、どの目線が良いのかを考えてみてください。撮るときにそれが難しい場合には、選ぶときに心の片隅に入れておいていただければ役立つかもしれません。

※掲載した作品は、第23回総合写真展の入賞作品から、解説上の参考例として川合麻紀先生に任意で選出していただいたものです。
 作者の皆様には、この場を通じて厚く御礼申し上げます。