そこに被写体があります。機材を選び、光を選び、構図を作り、明るさを考えてシャッターを切る。やっていることはみなさん同じことです。それでも作品には違いがでます。見る人に思いの伝わる写真があります。目が止まる写真があります。 写真を撮るとき、そして選ぶときに、ちょっと意識してみるといいことは何か。上位作品を見ながらいくつかのポイントをまとめてみました。
総合写真展 審査員 川合 麻紀先生
構図を作るとき、私が考えるのは、何をどのように見る人に伝えたいか、ということです。「見る人がわかりやすい写真」を撮りたい場合には、見て欲しい、ここに注目して欲しい、と思う部分の面積の構図を大きく作るようにしています。例えば、海と空の景色を撮影した場合、海の様子が綺麗だと思ったら、海の面積を多めにする。空の様子が素敵だと思ったら、空の面積を多めにする、というような感じです。
下里さんの作品は、構図のパターンが多くできそうなシーンです。下里さんの構図では、面積が多いのは火花の部分。火の粉が飛ぶ勢い、作業の神秘さに感動したのだろうということがわかります。
陶山さんの作品は、彼岸花を写した写真ですが、面積は背景の方が広いです。きっと、リングボケがキラキラしている背景に注目し、光の流れの印象を生かしたいと思ったのだろうなと考えられます。彼岸花の赤は強い色なので、花の面積は小さくても、この強い背景にも負けずに作品を見ることができます。構図を悩む方は、自分の思いがどこにあるのか、面積比で伝えてみましょう。
写真を初めて間もない方は、横長のものは横に、縦長のものは縦に撮るといいでしょう。そのように構図を作ると、余分な空間が出来にくくなるので、主役がわかりやすく、また、画面が安定しやすくなるからです。一般的には、横位置は広がりや安定感、縦位置は高さや奥行きを表しやすいと言われています。
木浦さんの作品は横位置の構図。帽子が上がる高さを考えて空を広めにした構図が伸びやかで気持ちの良い作品です。空部分には山の緑もありますので、どこまで入れるかで印象が変わります。空を広く入れることで青の色彩が増えて、写真全体で見たときに、より爽やかさが増しています。
平賀さんの作品は、広がりの横位置ですが、周囲が橋桁の影の黒に覆われています。額縁に絵を入れたような構図です。閉じ込められた景色は、本来感じるはずの広がりが抑えられるとともに、視線が中央に誘導されます。
柴田さんの作品は縦位置構図。路地などを撮影する際に、効果的な構図です。視線が誘導され、奥へ奥へと歩いて行く感じが出ます。奥に人物がいるタイミングで撮影したことで、そこに視線が向けられます。
西本さんの作品は、手前にポイントがあるタイプで、遠近感が強調されます。また、広角レンズを使うことで、カメラに近いネコは大きく写ります。奥行きを感じさせたい場合には、奥になる景色と、カメラに近い前景が、画面の中に両方あると良いですね。背景を取り込みながら撮ることで、どんなところに猫がいるのかがわかりやすく、絞りを開けたことで空気感も感じられる作品になっています。奥行きの縦構図だとしても、ある程度背景を画面に入れなければ奥行き感は感じません。
下條さんの作品は、縦構図ですが、光の陰影をうまく使い、虎の周囲は黒で覆われています。縦位置ですが、奥行き感は感じられません。余白が少ないことで、虎の表情や毛並みが目に飛び込んでくる感じで、かっこいいですね。肖像画、というイメージです。
薄田さん、下口さん、どちらの作品も人物は比較的中心にありますが、サイズ感が違います。どちらの写真も、人物以外の部分の情報量が比較的多めです。つまり、画面情報全体を見せたい写真であることがわかります。ただ、人物のサイズ的に考えると、下口さんの方は、人物も含めて景色として見せたい、という感じ、薄田さんの方は人物が大きめで、この場所も含めた私を見て!というふうに感じます。例えば、下口さんの写真のようなサイズ感の場合、全てのものが細かいもので構成されることになります。コンテストや、展示を考えると、こういう写真の場合には、プリントサイズは大きい方が、細かい部分がよく見えていいと思います。
同じように、中沢さんの作品も、パッと見ると全体がグリーンの陰影の作品、ポイントとなる人物のサイズが小さいのでプリントサイズは大きい方が細部も見せることができ、気持ちの良い風を感じられる作品ですね。小林さんの作品も、鳥のくちばしの間の赤い実に動きがあるので、そこを見せるという意味では、大きいプリントの方がいい写真と言えます。
今回は、構図についてお話ししてきました。構図には絵画と同じく定番構図もあります。ただ、初めからそれに当てはめて構図を作ろうとしても状況的にうまくいかないこともあるでしょう。まずは、見せたいものを多めに、ということを考えていただいて、それでも困ったときに、定番構図を思い出してみるといいでしょう。
※掲載した作品は、第24回総合写真展の入賞作品から、解説上の参考例として川合麻紀先生に任意で選出していただいたものです。
作者の皆様には、この場を通じて厚く御礼申し上げます。