撮影と応募の前にぜひ覚えておきたい― 上位作品に見る上達と上位入賞のための表現ポイント

 良い写真を撮るためには数学のように方程式があるわけではありません。もちろん、正確なピント、適正な露出、心地よい構図などは、優れた写真の必要条件ではありますが、必ずしも十分条件ではないようです。印象に残る写真やコンテストに入選する作品には、共通するいくつかのポイントがあるような気がします。それはどんな要素なのか。前回の第22回総合写真展の上位入賞作品を例に挙げながら、皆さんと一緒にそのヒントとポイントについて学んでいきましょう。

第23回 総合写真展 審査員 板見 浩史



Point6 水面を活かしてスケール感を倍増

景写真では限られた画面を使っていかにスケール感を出すか、ということがひとつの課題になります。ただ広く見せるだけでなく、同時に作品の主題となるポイントや部分を強調しなければなりません。その場合によく使われるのが手前の水面の映り込みを活用する手法です。主題の面積を倍に増やすのみならず、天地シンメトリー(対称)にすることで、画面にインパクトを付けることができます。つまり主題のスケール感や印象を効果的に増幅できるというわけです。

主題に魅力があればあるほど効果は大
 もっともどんな風景でもそうすればよいというわけではなく、主題そのものに魅力と印象の強さがなければいけません。掛け算でいうと、たとえば元の数がゼロに近ければ倍にしても数値がさして大きくならないのと同じです。また、池や棚田などを使って空の反映を大きく利用する場合などは、朝焼けや夕景などの鮮やかな色彩を効果的に増幅して活かすことができます。撮影場所の周囲をよくチェックして、こうした手法が活用できないか確認してみることも風景写真には大切です。

黒岩ミサ子さんの作品「月光に映える」

増幅効果に加え奥行き感もプラス

 ライトアップされた満開の桜並木に加え、山の端にかかる朧月だけでも大きな魅力なのに、手前の川への映り込みを活用して、その見せ所を何倍にも増幅させて見せた作品です。対岸に向かってやや斜めから撮影しているため、左方向に景色が遠くなり画面に奥行き感が生まれ、月とのバランスが良くなりました。桜のハイライト部の調子が飛ばないよう、露出を控えめに設定されたのでしょう。そのおかげで桜のピンク色の濃度も鮮やかで、周囲から並木がほどよく浮き出しました。

野口称太さんの作品「朝夢」

上下シンメトリーでバランスをとる

 バルーン大会での作品は、一斉に上昇する気球群を捉えた動的でカラフルな作品が多いものですが、この作品は静かな朝の雰囲気を活かした情緒的な作品になっています。ポイントは見事な朝焼けの雲。露出もそこに合わせているため手前の気球はややアンダー気味に描写されましたが、そのぶん機体の派手な模様や色彩が抑えられ、早朝の落ち着いた雰囲気を損なわずにすんだようです。この場合も、水面への映り込みにより気球の存在が倍加されたことで、バランスよく安定的な画面を作り上げることができました。

原田八重子さんの作品「朝霧染まる」

水田への反映を使いスケール感を出す

 水の張られた棚田を手前に入れながら、夜明けの朝霧を写し込んだ作品で、高い位置から奥行き感のある風景を上手に切り取っています。これも水面の映り込みを効果的に使ってスケール感を表現した好例といえるでしょう。畦で不定形に区切られた水面は全画面のおよそ半分ほどに及びます。この部分によってまだ明けやらぬ時間帯を表現させ、画面構成上の大きな役割を持たせています。鏡のように穏やかな水面も、朝霧の発生する気象条件をさりげなく説明しているように思えます。

Point7 日常の中で意外性を探し出す

光地や有名な撮影ポイントに行かなければ良い写真は撮れないと考えている方が意外と多いようですが、そんなことはありません。他人と同じような写真を撮るのではなく、自分だけの眼で被写体を発見し撮影したいのなら、普段働いたり住んでいる街の中ででも、いやむしろ身近な日常の中でこそ、第三者にも共感を得るリアルな写真を撮ることができるはずだと思います。いつも何気なく見過ごしている日常を、写真的好奇心を持って注意深く見直してみることが大切です。そんな意識さえ持つことができれば、見慣れた町や路地裏でも、写真的素材の宝の山に思えてくるに違いありません。

街中での人物撮影ではマナーを守ろう
 肖像権やプライバシー権といった個人の権利が強く主張される現代にあっては、街中で堂々と人間を撮りにくくなっていることは事実。しかし本人と特定できるほど画面の中で大きくメインに扱うのでなければ、一般的にはそれほど問題になることは少ないと思います。もちろん正面から主被写体として撮りたい場合は本人に了解を取らなければなりません。また、撮られた本人の名誉や不利益にならないような配慮は当然必要です。とはいえ、写真による街や社会風俗の記録という側面では、アマチュア写真家といえど過剰に萎縮することなく、人としてのマナーを守りながら正しく撮影を楽しんでいきたいものです。

飯島良雄さんの作品「大三十日の雨街」

「本日ただ今この瞬間」を捉えた強さ

 実にリアリティーのある作品です。誰もがこのような情景に出会っていながら誰もが撮ることのない光景、とも言えるでしょう。あえてカメラを取り出しシャッターを切った作者の記録者としての意識に敬意を払います。とっさに撮ったように見えて、本日ただ今この瞬間、この場所でしか得られない臨場感が鋭く切り取られています。赤い信号の滲み、ガードの隙間から激しく漏れる雨の飛沫、若い女性と車のヘッドライトとの交錯…。感傷や感慨を超えて生の現実を捉えた強さがこの写真の身上です。記録的なタイトルも良いですね。

石戸俊夫さんの作品「春風」

一瞬のハプニングを捉えて動きをプラス

 写真ならではの「撮れちゃった」面白さ。春一番の強風に舞い上がった女性の髪が、まるでギリシャ神話に登場するメドゥーサの髪が生きて動いているかのように見えてしまいます。切れ味の鋭い、まさに街頭スナップの醍醐味。一見、都会の若者の無機的な関係性を捉えたクールな(あるいは空疎な)写真ですが、風による一瞬のハプニングが生々しい動きを加味して魅力ある作品に仕上げました。女性がすました表情だからこそ面白味が増したといえます。モノクロ表現も内容のクールさを引き立てています。

田口泰彦さんの作品「冬の帰り道」

地域性と季節感を伝えるスナップ力

 塾帰りの少年たちでしょうか。日が暮れかけて家に向かう姿を良い位置から良いタイミングで捉えています。作品に命を与えているのが、マジックアワーの美しいブルーと歩道橋を照らす温かい人工光のオレンジ色とのコントラスト。学校と塾を終えて家族が待つ家にこれから帰る、という少年たちの内面まで見事に捉えられているように思います。前方の低い山々から都会にはない地域性がわかりますし、透明感のある残照の色彩からも冬の季節感がしっかり伝わってきます。

最後に

いかがでしたか。「上位作品に見る上達と上位入賞のための表現ポイント」は、今回をもちまして終了となります。
ここでご紹介した内容をよく理解し、1つでも2つでも撮影に活かしていただければ、写真の表現力が増して、必ずや良い結果に繋がるでしょう。
でも、あまり結果を出すことを慌てずに。楽しみながら、上達への道を一歩一歩進んでいくことをお勧めします。
それでは、皆さんのご健闘をお祈りしています。

※掲載した作品は、第22回総合写真展の入賞作品から、解説上の参考例として板見浩史先生に任意で選出していただいたものです。
 作者の皆様には、この場を通じて厚く御礼申し上げます。