撮影と応募の前にぜひ覚えておきたい― 上位作品に見る上達と上位入賞のための表現ポイント

 良い写真を撮るためには数学のように方程式があるわけではありません。もちろん、正確なピント、適正な露出、心地よい構図などは、優れた写真の必要条件ではありますが、必ずしも十分条件ではないようです。印象に残る写真やコンテストに入選する作品には、共通するいくつかのポイントがあるような気がします。それはどんな要素なのか。前回の第22回総合写真展の上位入賞作品を例に挙げながら、皆さんと一緒にそのヒントとポイントについて学んでいきましょう。

第23回 総合写真展 審査員 板見 浩史



Point4 子供写真は背景と客観性を大切に

く〝孫写真〟に良い作品はなし、と言われます。家族や身内だけで楽しむ場合は別として、確かにそのような傾向は多いかと思います。たとえば家族や身内以外の第三者に見せて「どうです、うちの孫可愛いでしょう?」というだけの写真では、作品としては不完全です。ご本人にとってのお子さんやお孫さんは存在自体が可愛いので、その他の要素はつい疎かになりがちです。しかし第三者を、惹き付けるだけの作品にするためには、むしろ背景や構図など、その子供の可愛さを引き立てる周辺要素もとても重要になります。

身内以外の子供写真は肖像権にも配慮
 自分の子供や孫を撮る時に注意を払わなければならないのは、客観性を保つということ。一人の子供として、その可愛らしさや素直な表情をどう引き出してあげるか、という点を常に意識しながら場所選びや状況設定を行いましょう。また、家族や身内以外の子供の場合は、肖像権の問題がありますので、近くに保護者がいて、許可が得られた時にだけ撮影するという配慮も必要です。こうした点にも気を配り、客観性と自分なりのアイデアを活かして、魅力ある“子供写真”にチャレンジしてみましょう。

長谷川喜一さんの作品「帰省中」

舞台をきちんと撮って役者を活かす

 タイトルから想像するに、夏休みに遊びに来たお孫さんを撮影したものと思われます。都会では珍しい古いポストに惹かれたのか、あるいは絵葉書でも入れに行ったのか、お姉ちゃんと弟が助け合って階段を降りる姿をタイミング良く捉えています。背景の垂直・水平線をきちっと収めたところが実にうまい。ローカル色溢れる〝舞台〟もいいけれど、夏休みを感じさせる〝役者〟の衣装と道具立てが実にピッタリ。問わず語りに状況を伝えるタイトルも、いいセンスだと思います。

結城祐二さんの作品「桜の下で」

パステル調で童話の主人公に変える

 まるで童話のワンシーンでも見ているような、夢と郷愁感あふれる場面を作り出しています。望遠レンズによる圧縮効果によって、背景の綺麗なボケから子供の存在が浮き立ちました。ソフト効果で春の淡い色調をさらに優しいパステル調に仕上げたことも、全体の雰囲気づくりに効果を上げました。相手が誰なのかはわかりませんが、男の子が大きい声で誰かを呼んでいる姿も良いですね。動きも服の色も可愛らしく、穏やかな景色の中で、小さいけれど強いポイントに仕上げています。

細川敏祐貴さんの作品「大変2倍幸せ2倍」

ハイレベルでアートな赤ちゃん写真

 双子の誕生記念に撮影された作品だと思います。同じポーズで元気いっぱいに泣く赤ちゃんが的確な位置からフレーミングされ、しかも二人が上下にややズレているところにリズムが生まれていて面白さも二倍。背景を黒バックにしたこと、色彩を省略してモノクロームにしたこと、テクニカルなライティングと精緻な仕上げなど、ファインアート作品を見ているようです。泣いている赤ちゃんには気の毒ですが、笑っているシーンではこれほど力強い写真にはならなかったでしょう。

Point5 朝夕の光が感動風景を作る

真を作るのは光、これはいうまでもないこと。なかでも朝と夕の二つの時間帯は太陽の位置が低いことからドラマチックな光景が生まれやすく、日中は平凡な場所であっても朝夕には驚くほど立体的な景色が作り出される場所もあります。一期一会の出会いもありますが、身近な場所で普段から朝夕の光が際立つポイントを探しておくと、気象条件の良い時に何度でも狙うことができて良いでしょう。

人工光を利用した夜景なども狙い目
 ご来光を例にとるまでもなく朝陽は希望や未来といったポジティブなイメージを見る者に与え、夕陽は静寂や寂しさや余韻をともなうイメージを与えます。どちらも人間の感情をストレートに呼び覚ます光景なので、作画意図をはっきりと持って光線の扱いや構図などを決めたいものです。また、特殊な例として夜景がありますが、これは自然の明かりを使う星景写真などは別として、人工光を活用することになります。高感度撮影や長時間露光等を活かした不思議な描写は独自な世界を作り出すことができ、コンテストでも選者の目を惹きますが、既発表の場所や手法など前人の作品を超える個性を発揮していないとなかなか上位には選ばれません。

鬼形一郎さんの作品「斜陽と樹」

希望や未来を感じさせる真逆光撮影

 もやの漂う中を光のシャワーを浴びて立つ一本の木に焦点を合わせた、清々しい作品。真逆光からの撮影なので太陽の部分はフレームアウトして作画しています。画面の中央上から三角形に降り注ぐ光芒がとても美しく立体的に再現されました。タイトルは夕陽を連想させますが、全体のイメージと画面構成は希望に輝く未来を暗示しているような気がします。近年のレンズはコーティングが改善されていますので、たとえ逆光であってもフレアやゴーストを恐れずに撮影してみることをお勧めします。

奥谷琴子さんの作品「落陽」

一日のストーリーを夕方の光で表現

 小高い丘の遊園地。すでに陽は西に傾き、楽しかった一日もそろそろ終わりを告げ始めています。まもなく家路に着き、また明日から単調な一日がはじまる…そんな気持ちが胸に迫ってくる光景です。楽しさの余韻と名残惜しさが同居する瞬間をうまく表現しました。高いレールの上の乗り物の位置やガゼボ(西洋風あずまや)の影で陽を弱めたところなど、画面の細部までしっかり画面づくりをした努力が感じられます。露出の設定も絶妙で、冒頭の感想もこの微妙な薄暗さから来るのだと思います。

多田秀男さんの作品「安全、守る導の灯。」

アイデアと技法で創り出すSF世界

 夜景はどうしても人工光を活用することになります。都会なら車や鉄道の光跡やビルの明かり、工場夜景、ネオンやイルミネーション等々、昼間では想像もつかないほど美しい光景を見せてくれます。この作品は、海岸での船の光の航跡と灯台の燈火を活かした夜景。長時間露光によって波がつくるベールのような白さも幻想的です。沖を行く何艘もの船が作る色とりどりの光の帯に白い灯台の灯が強いアクセントとなり、まるでSF映画のワンシーンのよう。たとえ同じ場所であっても、撮影技法によってはまったく違う世界が生まれるのもこうした夜景撮影の魅力です。

※掲載した作品は、第22回総合写真展の入賞作品から、解説上の参考例として板見浩史先生に任意で選出していただいたものです。
 作者の皆様には、この場を通じて厚く御礼申し上げます。