撮影と応募の前にぜひ覚えておきたい― 上位作品に見る上達と上位入賞のための表現ポイント

 良い写真を撮るためには数学のように方程式があるわけではありません。もちろん、正確なピント、適正な露出、心地よい構図などは、優れた写真の必要条件ではありますが、必ずしも十分条件ではないようです。印象に残る写真やコンテストに入選する作品には、共通するいくつかのポイントがあるような気がします。それはどんな要素なのか。前回の第22回総合写真展の上位入賞作品を例に挙げながら、皆さんと一緒にそのヒントとポイントについて学んでいきましょう。

第23回 総合写真展 審査員 板見 浩史



Point2 個性的な光景を発見・創造する

真の魅力はオリジナリティー、つまりその人しか撮れなかった光景の発見とその独自表現にあると思います。なぜならそれは、その日その時にその人が、この地球という惑星の上で立ち会った貴重な存在証明でもあるからです。その感動を自分が楽しみ、さらに第三者も共有できるというところに写真の醍醐味があります。その光景の発見が写真表現としてきちんと定着し鑑賞レベルに到達するために、また、さらに誇張したりブラッシュアップするためには、撮影技術をしっかり学ばなければなりません。

面白がる柔軟な心と工夫を
 幸い、現在のデジタルカメラの進歩やパソコン上でのレタッチ技術で容易にはなったと思いますが、やはり肝心なのは眼前に見つけた光景を面白がる柔軟な心と、それをどう表現するかという工夫に他なりません。また、そのような写真を撮るための定石や方程式はありません。さまざまな優れたクリエイティブ作品を数多く見て心に刺激を受け、そのテクニックを自分なりに考察してみることが一番の早道だと思います。

仲栄真宏さんの作品「東京スカイツリー」

写真のリアリティーがあればこその超現実

 画家ダリのシュールレアリズムを思わせるようなインパクトがあります。隅田川の川面に映ったスカイツリーだということが分かっていても、味わい深く、眺めていて飽きさせない写真です。これだけ大きい波が来るのは大きな船が通過した後でしょうか。深い紺色が画面下部の広い部分を占めているので像が逆さまでも安定感があります。何といってもシャープなピントで塔の質感やディテールが正確に描写されている点が、写真によるシュール(超現実的)な面白さです。何枚も撮ってベストショットを選ばれたことが想像できます。

海渡裕郎さんの作品「世界一ロマンチックなワインを貴方に」

アイデア+こだわり=クリエイティブ

 ああ、この手があったのか、と思わず感心してしまうほど、クリエイティブでお洒落な作品ですね。世界の名峰マッターホルンの実像をメインに、手前のグラスの中にも虚像を小さく配するというアイデアもさることながら、主峰のみを強調し周囲を暗部で省略するテクニックからも、作者の作品づくりに対するこだわりの強さと完成度を感じます。まるで上質なコマーシャルフォトを見るようです。ただ、これだけ強いインパクトを与える表現手法は先に発表した者勝ちで、いくらアイデアだけを真似てもこれ以上の作品に仕上げないと高い評価を得られないことになります。

柏床訓荘さんの作品「ブドウハウス」

普通のものが不思議に見える瞬間を探す

 太陽は地球という舞台の優れた照明監督。ふだん見慣れたものを、ある瞬間に異質に見せる力を持っています。たとえばこの物体、タイトルによればブドウの栽培ハウスとのこと。それが金属を思わせる質感の不思議な宇宙基地のように見え、圧倒的な存在感を示しています。真上からの昼光だったら中身が見え、すぐにハウスだとわかりますが、この時間帯の斜光を選んだことで宇宙的イメージを増幅できました。ハウスの明るい部分に露出を合わせたことで周囲が暗くなり、より不思議感が増して効果を上げました。

Point3 動物撮るなら意外な表情を狙う

とえば、犬なら犬らしく、猫なら猫らしく描写する…というのが絵でも写真でも表現の定石ですが、多くの作品が一堂に集まるコンテストや公募展の審査では〝意外性〟も選者の目を惹く大きな要素となります。動物でいえば、大自然の中にいるように伸び伸びと動き回ったり、野性本来の表情をした動物は、誰もがTVや写真集などで見て知っています。それだけに、写真を見る人は、それ以上の発見を期待するものです。そのためには既成概念にとらわれず、自分自身が出会ったリアルな表情や仕草をストレートに捉えてみましょう。

擬人化して共感を呼ぶ作品に
 動物園は被写体の宝庫。誰もが気軽に行ける場所ですが、誰もが傑作を撮れるわけではありません。野生の動物を撮ろうなどという先入観を捨て、目の前にいる動物たちの姿や表情をじっくり観察してみましょう。意外と人間と同じような面白い仕草や表情を発見できるものです。もちろん、独特で個性的な顔つきや動き、特徴的な外形や模様などを切り取るのも楽しいものですが、擬人化したり感情移入してみることで、見る人に共感を与える奥深い写真が撮れることも多いようです。

祭原一郎さんの作品「哀愁」

主題を強調するにはシンプルな構図

 飼育舎の中のキリンでしょうか。よいアングルを見つけたものです。子供のキリンのようですが、今まで誰がこんな悲しげな表情を見たことがあるでしょう。目のキャッチライトを実にうまく活かしています。露出の設定も明るすぎず暗すぎず適切です。室内の暗い背景の黒の分量と、オーバーに飛んだ窓外の白とのバランスも、囚われの身の哀しさを物語るようで絶妙です。単なる動物写真、というより生命の澄み切った存在感を描いた写真だと感心します。

林奈月さんの作品「共に歩む」

より大きく見せるにはタイトなフレーミング

 ゾウの親子の上質なポートレート。光の当たり方や背景の省略など、まるで街の写真館で撮ったような完成度の高さです。おそらく飼育舎から表に出てくる瞬間を切り取ったことが功を奏したのでしょう。仔ゾウと親ゾウの足の運びもうまく捉えています。大きいものはタイトなフレーミングで切り取るとより大きく見える、という構図の原理を駆使した撮影法です。暗い部分が多いとオーバーに写りがちな露出をうまくコントロールして、皮膚の質感をしっかりと出している点も効果的です。

下條英樹さんの作品「雪の日」

ユーモラスな擬人化は最高のスパイス

 悲しいライオンの表情が何となく、雪の日に出勤しなければいけないサラリーマンのお父さんたちを思わせ、ユーモラスで誰にも共感を呼ぶ写真ですね。やっぱり寒いのかギュッと寄り添っている姿も哀れみを感じさせます。百獣の王も人間も辛いときは一緒、という擬人化がとても効いている作品で、こんな写真が撮れるのが動物園の面白いところ。降り続ける雪の粒もうまく写し止められています。このような天気の中でも動物園に撮りに行った甲斐があったというものです。

※掲載した作品は、第22回総合写真展の入賞作品から、解説上の参考例として板見浩史先生に任意で選出していただいたものです。
 作者の皆様には、この場を通じて厚く御礼申し上げます。