撮影と応募の前にぜひ覚えておきたい― 上位作品に見る上達と上位入賞のための表現ポイント

 良い写真を撮るためには数学のように方程式があるわけではありません。もちろん、正確なピント、適正な露出、心地よい構図などは、優れた写真の必要条件ではありますが、必ずしも十分条件ではないようです。印象に残る写真やコンテストに入選する作品には、共通するいくつかのポイントがあるような気がします。それはどんな要素なのか。前回の第22回総合写真展の上位入賞作品を例に挙げながら、皆さんと一緒にそのヒントとポイントについて学んでいきましょう。

第23回 総合写真展 審査員 板見 浩史



はじめに

 皆さんも、他の人の作品を見ていて、自分だったらこう撮る、この状況ならこんな撮り方もあるのでは…などと、いろいろと思いをめぐらせることがあるでしょう。このように、自分も作者になったつもりで、あれこれシミュレーションをしながら作品を鑑賞していくと、被写体へのアプローチやシャッターを切る感覚などが、しっかりと身についていくことと思います。第22回総合写真展のたくさんの入賞作品の中から、今回特に目についた表現ポイントとそのアドバイスは次の7項目です。


それぞれの項目の主旨を分かりやすく言いかえてみましょう。

写真は引き算(余計なものを画面から省く)も大切だが、じっくり〝プラス要素〟を待ってスパイスの効いた、ひと味違う写真を狙おう。
写真はオリジナリティーが命。誰もが撮れる写真ではなく、自分にしか発見できない目新しい光景を探したり、テクニックを駆使して新たに創り出してみよう。
よく見るふつうの動物の表情を撮るだけではなかなかコンテストで高い評価を得られないし、見る人も驚かないもの。時間帯や状況を変えたり、擬人化したりして意外性のある表情を狙おう。
自分の子でもよその子でも、子供が可愛いのは当たりまえ。「作品」にするなら客観的な視点を持って、子供の存在感を引き立てる背景や状況で撮影しよう。
風景を撮るならドラマチックな朝夕の斜光で狙うのがベスト。また、夜間であっても長時間露光などを駆使して人工光や星を使った独自の景色を狙ってみよう。
水面の反射効果は上下対称構図の面白さも生み出し、被写体そのもののインパクトや、自身が受けた感動も倍にしてくれる〝魔法の鏡〟。
遠くへ行かなくても身近な場所にこそ〝被写体の宝庫〟はある。人物へのマナーに配慮しながら、街中でも恐れずに傑作を狙おう。

 以上のことを念頭に置きながら、入賞した方々の作品をじっくり鑑賞してみてください。その写真の良さや作者の表現意図がストンと胸に落ちたとき、あなたが次に撮る写真はきっと大きく変わっていることと思います。
 総合写真展では入選以上の該当作品を毎年、東京都美術館で展示しています。このような展覧会の良いところは、大きなプリントで展示された作品をじっくりと鑑賞し、その作品の魅力や作者の表現ポイントをじかに感じ取ることができます。自分の写真と入賞作品との差を比較しながら自己レベルを知ることもでき、これからの作品づくりの大きな励みになることでしょう。ぜひ、多くの方に、これらの作品をご覧いただきたいと思います。
 それでは、その入賞作品を例に挙げながら、それぞれの作品の見どころや表現ポイントを学んでいきましょう。

Point1 プラスアルファで写真にスパイスを

い風景や光景に出会ったとき、思わず「ここだ!」とシャッターを押した経験は誰にもよくあることでしょう。それはもちろん大切なことで、そのシーンはまず押さえておかなければなりません。さらに素晴らしい傑作に仕上がるかどうかの違いはその先。その光景に新たな展開が付加されるかどうか、想像する、待つ、備える、という心構えがあるのとないとでは結果は大きく違ってくると思います。

良い場所では何かを待って粘る
 良い場所に出会っても、数枚撮っただけでさっさと移動してしまう人もいますが、良い〝舞台〟を見つけたら、そこでふさわしい〝役者〟の登場を待つのも写真では大切です。肝心なのは想像力と粘り。フレーミングや画面構成など、その瞬間に備えて準備を整えてじっくりと待つことも覚えておきましょう。

濱島康郎さんの作品「雪の中の帰宅」

人物の動きで、ひと味違う鉄道写真に

 根強いファンの多い鉄道写真、最近は総合写真展への応募も増えてきました。この作品はローカル鉄道での停車の一瞬を見事に捉え、季節感と風土感あふれる作品に仕上げています。作品のポイントは、視界を遮るほどの降雪の激しさと、急いだ様子で駆け出す女性客の動きです。静的な画面に、シルエットの小さな動きが大きなアクセントになって作品の魅力を高めました。この姿を巡ってさまざまな興味や想像が湧き、作品への鑑賞も深まります。厳しい撮影状況の中、このプラスアルファを周到に待って捉えたことが成功の秘訣と言えるでしょう。また、ブルー調のモノトーンの中で光る列車の赤いテールランプも郷愁を誘います。

大原忍さんの作品「大ケヤキにフクロウが巣立つ季節」

フクロウの存在が意表を突く

  御神木として崇められている大ケヤキの巨大な根元とフクロウの幼鳥との取り合わせが、見る者の意表を突きます。巣から離れたばかりの幼鳥らしく、その表情と様子から作者とは偶然の出会いなのだと思われます。それほど長い撮影時間だったとは思えませんが、画面の中の幹の配分や、左の林の空間の取り入れ方が、実にバランス良く巧みです。しめ縄と御幣(ごへい)の白がフクロウとうまく響き合い、まるで神の使いのような印象さえ受けます。こうした野生生物の撮影においては充分に距離を取り、驚かさないよう、くれぐれも注意を払うことが必要です。

白山貴浩さんの作品「井戸端」

とぼけた表情をプラスして面白さアップ

 海中のアシカの群れを下から撮影したダイナミックな作品。逆光位置で狙ったことで黒い身体の背後から光が射して立体的に見え、思い思いに動き回るアシカたちの動きが明瞭に描写されました。こちらを振り返った一頭だけストロボの光を受けて顔が浮かび上がった点がこの作品の面白さにつながりました。下から撮った群像だけでも興味深いのに、とぼけた表情が作品の価値を一気に高めています。

※掲載した作品は、第22回総合写真展の入賞作品から、解説上の参考例として板見浩史先生に任意で選出していただいたものです。
 作者の皆様には、この場を通じて厚く御礼申し上げます。